スタークラフト年代記 第6話:タソニスに残された声
原作の出来事をもとに新たに執筆されたファンフィクションです。登場人物の感情や台詞、場面の雰囲気は再構成されており、主要な結末を含みます。
タソニスへ向かう影

コラールの息子達の艦隊が次元跳躍を終え、タソニス軌道の外縁に静かに姿を現した。テラン連合の心臓部であり、数十億の人口が密集する巨大な惑星が、彼らの眼下で青い光を放っていた。メンスクの瞳には、長年抱き続けてきた復讐心と野望が冷たくきらめいていた。反乱軍のすべての視線が、この巨大な標的に向けて集中していた。
艦橋のホログラム・テーブルの上に、タソニスの防衛網が赤く投影された。メンスクはレイナーとケリガンを呼び出し、サイオニック放出器を惑星の地表に投下するという恐ろしい計画をついに打ち明けた。ザーグ軍団を引き寄せ、連合の防衛線を内部から完全に崩壊させるという彼の声は、不気味なほど平穏だった。
レイナーの顔は一瞬にして硬直落し、テーブルを強く叩きつけた。「正気ですか?あの下には無辜の民間人が数十億人もいるんですよ!これは戦争ではなく、ただの大虐殺です!」彼の血走った目は、メンスクへの怒りと軽蔑で燃え上がっていた。かつての仲間意識は、すでに粉々に砕け散りつつあった。
ケリガンもまた腕組みをしたまま、不安な様子を隠せずにいた。強力なテレパシー能力者である彼女の脳裏には、すでに放出器が呼び寄せるザーグの飢えた意識がかすかに染み込み始めていた。「ジムの言う通りよ、アークチュラス。これでは私たちが連合と何ら変わらない、恐ろしい怪物になるのと同じことだわ」
メンスクは二人の激しい反発にも眉一つ動かさなかった。「我々は今、人類の未来を救うための不可避な犠牲を払っているのだ。連合が存在する限り、この宇宙に真の平和は訪れない」彼の断固たる口調は一切の妥協の余地を残さず、艦橋の空気は凍りついたように重くなった。
レイナーは力なくため息をつき、首を振った。自分が信じて従ってきた革命の大義が、一介の権力者の残酷な道具へと成り下がる瞬間を目撃することは、骨身に染みる苦痛だった。彼はケリガンと短く視線を交わしたが、軍人として命令を拒めない彼女の立場を誰よりもよく知っていたため、さらに沈痛な面持ちになった。
重苦しい沈黙の中で、メンスクは作戦開始を宣言した。「感情に流されている時間はない。全員、各自の配置に戻り、直ちに任務の準備に取りかかれ」彼の命令が下ると、艦橋の将校たちは機械的に動き始めた。レイナーは拳を固く握りしめ、後ろも振り返らずに冷たい金属の廊下へとブリーフィングルームを後にした。
格納庫では、地上への降下準備を終えた輸送船がエンジンを暖めながら低く唸りを上げていた。ケリガンは自身のゴースト戦闘服を整え、複雑な心境で武器を点検した。彼女の指先がライフルの冷たい銃身に触れるたび、間もなくタソニスの地上に繰り広げられるであろう凄惨な地獄絵図が脳裏をよぎり、彼女を苦しめた。
崩れゆく連合の心臓

タソニスの主要拠点にサイオニック放出器が隠密裏に設置されると、宇宙空間を切り裂くようなザーグの不気味な咆哮が軌道を超えて響き渡った。大気圏を突き破って降り注ぐ無数の降下嚢(スポーニング・サック)は、まるで血の雨のように首都の空を黒く染めた。連合の誇りであった堅固な防衛線は、瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。
巨大なミュータリスクの群れが高層ビルの間を曲芸のように飛び回り、猛毒の刃を浴びせた。地上では数千匹のザーグリングが防壁を獣のように這い登り、連合のマリーンたちを無残に引き裂いた。難攻不落を誇ったタソニスの軍事基地は、ザーグの圧倒的な物量攻勢の前に、わずか数分で無残に崩壊していった。
通りに放り出された無数の市民は恐怖に怯えて悲鳴を上げ、シェルターへと殺到した。しかし、避難所へと続く道さえも、すでにヒドラリスクの酸性液によって溶かされていた。我が子を抱いて走る母親や負傷した老人たちの上に無慈悲な爪が襲いかかり、かつて華やかだった都市は瞬く間に血生臭い虐殺場へと変貌した。
軌道上のハイペリオンの艦橋から地上の惨状を見つめていたレイナーは、あまりの惨さに両目を固く閉じた。画面の向こうから聞こえてくる民間人たちの断末魔は、彼の心臓を鋭い刃物でえぐるかのようだった。「これは俺たちが阻止すべき怪物どもの仕業だ。それを、俺たち自身の手で呼び寄せるなんて……」彼の声は怒りで微かに震えていた。
メンスクは後ろ手を組んだまま、ホログラム画面から目を離さなかった。数十億人の犠牲がリアルタイムで中継されているにもかかわらず、彼の表情には一抹の動揺も罪悪感すらも見られなかった。むしろ、連合の象徴的な建造物が炎に包まれて崩れ落ちる様子を見つめながら、その口元に微かで残酷な笑みを浮かべているだけだった。
レイナーはメンスクのその笑みを見た瞬間、背筋が凍りつくのを感じた。自分が独裁者を追い出すために、もう一人の、あるいはもっと恐ろしい独裁者を王座に就かせようとしているのだという事実を、骨の髄まで思い知らされたのだ。彼は腰の拳銃のグリップをいじりながら、今すぐにでもメンスクの頭に弾丸を撃ち込みたい衝動を必死に抑え込んだ。
まだ地上に投入されていないケリガンの打撃部隊は、降下待機室で息を潜めて命令を待っていた。ケリガンはヘルメット越しに聞こえてくる地上の凄まじい悲鳴に、頭を抱え込んだ。テレパシーを通じて伝わってくる数百万人の恐怖と苦痛が、彼女の精神を鋭く掻きむしり、激しい頭痛を引き起こしていた。
彼女はかつて連合の暗殺者として生き、多くの血を流してきたが、これほど無差別で大規模な虐殺を前にしては、人間としての罪悪感に耐えかねていた。しかし、彼女はまだ見捨てられたわけではなかった。メンスクの次の命令が下るのを待ちながら、彼女は震える手でライフルを固く握りしめ、近づきつつある自身の過酷な運命を直感していた。
黄金の艦隊の乱入

ザーグがタソニスを完全に飲み込もうとしたその瞬間、軌道外縁のレーダー網に凄まじいエネルギーが感知された。タサダール率いるプロトスの黄金の艦隊が、眩い閃光とともに空間を切り裂いて現れたのだ。彼らはザーグの汚染を浄化するため、遅滞なく主砲を充填し、惑星の地表に向けて圧倒的な火力を注ぎ込み始めた。
キャリアーから放たれた無数のインターセプターがミュータリスクの群れを引き裂き、空を制圧した。プロトスの介入は連合にとっては奇跡的な救いだったが、ザーグを利用して連合の息の根を止めようとしていたメンスクにとっては致命的な障害だった。メンスクの顔が初めて歪み、彼は慌てて通信チャンネルを開いて指揮官たちを呼び出した。
「プロトスがザーグを全滅させれば、連合は生き残ってしまう。奴らが介入できないよう、今すぐ阻止しろ!」メンスクの声には焦燥感が滲んでいた。彼はザーグがタソニスの残存防衛兵力を完全に一掃するまで、時間を稼がねばならなかった。そして、その不可能とも思える任務を遂行できる唯一の適任者は、ゴーストのエージェント、ケリガンだった。
通信を受け取ったケリガンは、自分の耳を疑って問い返した。「今、ザーグを保護しろとおっしゃるのですか?私たちの同胞を無残に虐殺しているあの怪物どものために、プロトスと戦えと?」彼女の声には、抑えきれない怒りと混乱が満ちていた。これは、彼女が一生を捧げてきた軍人としての信念を根底から否定する命令だった。
メンスクは特有の冷静かつ威圧的な口調で、彼女の反発をねじ伏せた。「これは人類にとって最も重要な任務だ、サラ。お前がこの命令を遂行しなければ、我々が払ったすべての犠牲が水の泡となる。私を信じろ」彼はケリガンが自分に対して抱いている恩義と忠誠心を巧妙に刺激し、彼女の精神的な隙に入り込んだ。
通信網に割り込んだレイナーが、必死に叫んだ。「アークチュラス、正気か!今すぐ作戦を中止しろ!サラをあの地獄の底へ突き落とす気か!」しかし、メンスクは冷酷に通信を遮断した。艦橋にはレイナーの絶望的な叫びの残響だけがしばらく漂って消え、メンスクはただ戦術画面の赤い点だけを見つめていた。
ケリガンはヘルメットの通信機が沈黙するのを感じ、深くため息をついた。彼女はメンスクが自分をチェス盤の駒のように扱っていると知りながらも、彼が自分を連合の恐ろしい実験室から救い出してくれたという過去の足枷から逃れられずにいた。悲劇的な使命感が彼女の理性を抑え込み、ついに彼女は重い頭を縦に振った。
「命令に従います」短く乾いた返事とともに、ケリガンは通信を切った。彼女は部下たちに降下準備を指示し、ドロップシップのハッチを開けた。眼下に広がるタソニスは、炎と血に染まった巨大な墓場のようだった。彼女は人間としての最後の迷いを胸の奥深くに埋め、地獄へと身を投じた。
ゴーストの影の作戦

タソニスの廃墟に着陸したケリガンは、C-10キャニスター・ライフルのボルトを引き、冷たい金属の感触で揺れ動く心を落ち着かせた。周囲はザーグのクリープに覆われて不快な悪臭を放ち、遠くから聞こえる獣たちの咆哮が神経を逆撫した。彼女はクローキング装置を起動し、小規模な精鋭部隊を率いて静かに闇の中へと溶け込んでいった。
崩れ落ちた高架道路の下を通り抜けながら、彼女の部隊はザーグの群れの目を巧妙に避けた。彼らの目標はザーグではなく、ザーグを浄化するために前進するプロトスの前哨基地だった。ケリガンは瓦礫の中に身を潜め、戦術バイザーを通じてプロトスの指揮官の動線を把握した。彼女の呼吸は氷のように冷たく、規則的なものへと変わっていった。
プロトスのハイ・テンプラーが強力なサイオニック・ストームを準備し、ザーグの群れに向けて手を伸ばした瞬間だった。ケリガンは狙撃鏡の十字線をテンプラーの頭部に正確に合わせた。引き金を引こうとしたその刹那、彼女の指先が微かに震えた。この引き金を引けば、無数の民間人がザーグの爪にかかって引き裂かれ死ぬことになるという罪悪感が、彼女の魂を締め付けた。
しかし、彼女は訓練されたゴーストのエージェントだった。一瞬の迷いを振り払い、ケリガンが引き金を引くと、鋭い破裂音とともに特殊徹甲弾が空を切り裂いた。弾丸はプロトスのサイオニック・シールドを貫通し、テンプラーの急所を正確に撃ち抜いた。指揮官を失ったプロトスの兵力は、瞬く間に陣形が崩れ、大混乱に陥り始めた。
ケリガンの部隊は、混乱に陥ったプロトスに向けて一斉にEMP弾と火力を浴びせた。精密かつ致命的な打撃により、プロトスの防衛線はなす術もなく突破され、彼らがザーグを浄化しようとした計画は完全に水泡に帰した。ケリガンは倒れゆくプロトスの戦士たちを見つめながら、勝利の喜びの代わりに、骨の髄まで凍みるような深い悔恨を感じていた。
同じ時刻、軌道上のハイペリオンの艦橋で、レイナーは戦術モニターに表示されるケリガンのバイタルサインと位置データを不安げな目で見つめていた。プロトスの信号が一つ、また一つと消えていくたびに、彼の心拍数は跳ね上がった。それは彼女が任務を完遂しつつあることを意味していたが、同時に彼女がザーグの真っ只中に一人取り残されることを意味していた。
レイナーはメンスクの後ろ姿を睨みつけ、拳を固く握りしめた。あれほど献身的な仲間さえも、自身の野望のための消耗品として扱うメンスクの残酷さに、吐き気がするほどだった。この作戦は最初から、誰かの犠牲を前提に仕組まれた罠だったのだ。そしてその犠牲者が、最も忠実に命令に従ったケリガンであるという事実が、レイナーを狂わせそうにしていた。
「任務を完了しました。プロトス兵力は退却中です」通信機から聞こえてくるケリガンの疲弊した声が艦橋に響いた。レイナーは安堵のため息をつき、今すぐ救助船を送るべきだと考えた。しかし、メンスクの沈黙は長く、引き返せない一線を越えてしまった者の冷酷な眼差しだけが、戦術画面の赤い点に向けられていた。
孤立した戦場

指揮系統が崩壊したプロトス兵力は、これ以上の不必要な犠牲を防ぐため、軌道への撤退を決定した。黄金の戦艦群が青い閃光を放ちながらタソニスの空を去っていく様子を見つめていたケリガンは、胸の奥がぽっかりと空いたような虚無感に襲われた。彼女は命令を完遂したが、その代償として惑星全体をザーグの顎へと投げ与えてしまったのだ。
プロトスという巨大な脅威が去ると、地上のザーグ軍団は即座に飢えた視線を巡らせ、新たな獲物を探し始めた。そして彼らの目に留まったのは、敵陣の真ん中にぽつんと取り残されたケリガンの小規模な打撃部隊だった。四方から土煙が舞い上がり、大地が振動し始め、不気味な咆哮が廃墟の死角から一斉に沸き起こった。
「四方から接近中!敵が押し寄せてきます!」部下の緊迫した叫びとともに、巨大なヒドラリスクの群れが瓦礫を突き破って溢れ出てきた。ケリガンは即座に防衛陣形を指示し、ライフルを乱射した。降り注ぐ銃弾がザーグの甲殻を貫き、緑色の体液を撒き散らしたが、倒れた怪物たちの死体を踏み越えて、終わりなく新たな群れが押し寄せてきた。
ケリガンはサイオニック・エネルギーをかき集め、前方のザーグリングの群れに向けて放出した。強力な衝撃波が怪物たちを粉々に砕いたが、彼女の体力も急速に底を突きかけていた。マガジンはすでに何度も交換され、部下たちの悲鳴が一つ、また一つと無線機を通じて聞こえてきた。防衛線は手の施しようがないほど狭まり、彼らを息苦しく締め付けていった。
血に染まったグローブでヘルメットの通信チャンネルを開いたケリガンは、荒い息を吐きながら叫んだ。「司令部、応答してください!こちらはケリガン。プロトス兵力を無力化しましたが、現在、大規模なザーグの群れに完全に包囲されています」彼女は飛びかかってくるザーグリングの顎に拳銃をねじ込み、引き金を引いた。粘り気のある体液が彼女のバイザーを赤く染めた。
「弾薬が底を突きかけています。死傷者が続出しています。直ちの撤退と輸送支援を要請します」彼女の声は切迫していたが、その奥には依然として救出されるという固い信条が息づいていた。メンスクが自分をこの地獄に送り込んだとしても、任務を完遂した自分を決して見捨てはしないという、人間的な信頼が残っていたのだ。
彼女は負傷したマリーンを遮蔽物の陰へと引きずりながら、絶え間なく押し寄せる敵に向けて射撃を続けた。空を見上げ、輸送船の待ち遠しいエンジン音が聞こえてくることを心から願った。彼女の青い瞳には、死への恐怖よりも、生きて仲間の元へ帰るのだという強烈な生存への意志が、炎のように燃え盛っていた。
「司令部、聞こえますか?今すぐ輸送船を送ってください!私たちが持ちこたえられるのは、長くてもあと数分です!」無線機の向こうからザーザーという雑音だけが返ってくる中、ケリガンは人間としての最後の希望にしがみつき、悲痛な救助要請を続けた。彼女の切実な叫びは、血生臭いタソニスの赤い空へと虚しく散っていった。
艦橋の沈黙と裏切り

タソニスの地上から聞こえてくるケリガンの切迫した救助要請が、ハイペリオンの艦橋のスピーカーを通じて生々しく響き渡った。銃声と悲鳴、そして荒い息遣いが入り混じったその声は、艦橋の空気を凍りつかせた。レイナーは椅子から飛び起き、通信士に向かって激しく怒鳴り散らした。「今すぐドロップシップを出撃させろ!彼女を連れ戻すんだ!」
通信士が震える手でコンソールを操作しようとしたその瞬間、メンスクの冷酷で断固たる声が艦橋を切り裂いた。「その命令は取り消す。全艦隊、タソニス軌道から直ちに撤退する準備をせよ」その一言に、艦橋の全員が息を呑んだ。機械音だけがブーンと唸る中、レイナーは自分の耳を疑い、メンスクに向けてゆっくりと顔を向けた。
「今、何と言いました?」レイナーの声は、抑えきれない怒りで小刻みに震えていた。「あの下にサラがいるんですよ!あんたが命じたあのクソ忌々しい任務を完遂して、救助を待っているんだ!それなのに、見捨てて行くって言うのか!」彼は大股で歩み寄り、メンスクの前に立ちはだかった。今にも殴りかからんばかりの険悪な気迫だった。
メンスクはレイナーの怒りを前にしても、平然と後ろ手を組んだまま戦術モニターだけを見つめていた。「任務は完了した、コマンダー。プロトスは退き、ザーグは連合を破壊している。我々の目的は達成されたのだ。今は艦隊を無傷で保ち、次の段階に備えねばならん」彼の瞳には、ケリガンに対する一抹の同情すら存在しなかった。
レイナーは驚愕を禁じ得なかった。「目的達成だと?あんたは最初から、彼女を生かして連れ戻す気などなかったんだな!ただの使い捨ての駒に過ぎなかったんだ!」レイナーの怒号が艦橋に響き渡ったが、周囲の将校や武装した警備兵たちは、メンスクの無慈悲な権力に圧倒され、誰一人として口を開くことなく床を見つめるばかりだった。
「私は人類を救うためにここに立っているのだ、ジム」メンスクはついに顔を向け、レイナーを冷たく見下ろした。「大義のためには、誰かの犠牲は避けられん。私はどのような感情的な理由であれ、我々の偉大な革命を危険にさらすつもりはない。私の行く手を阻む者は、誰であろうと容赦はせん」
メンスクの言葉は単なる言い訳ではなく、確固たる信念から生じた狂気だった。レイナーはその時初めて、自分が従ってきた指導者の真の怪物のような本性を完全に理解した。連合の暴政を終わらせると言っていた男が、連合よりもさらに残酷で、血も涙もない暴君へと覚醒する瞬間を、その両目で克明に目撃してしまったのだ。
「全艦隊、次元跳躍準備」メンスクの最終命令が下ると、艦船の巨大なエンジンが轟音を立てて稼働し始めた。艦橋の照明が赤く点滅し、撤退を知らせた。レイナーは窓の外へと遠ざかっていくタソニスの大気を見つめながら、骨の髄まで染み渡るような凄まじい無力感と裏切りに、拳から血がにじむほど固く握りしめた。
途絶えた無線

タソニスの地上の廃墟は、すでにザーグの海と化していた。ケリガンのライフルはついに最後の弾丸を吐き出し、冷たい金属音を立てて停止した。彼女は空になったライフルを地面に投げ捨て、腰から拳銃を引き抜いた。四方から押し寄せるザーグリングとヒドラリスクの咆哮が、彼女の鼓膜を破らんばかりに響き渡っていた。
「司令部……応答しろ……輸送船はどこだ?」彼女の声は、今や怒りと絶望でかすれていた。空を見上げたが、軌道を彩っていた味方の艦船は、すでに赤い軌跡を残しながら宇宙の彼方へと遠ざかっていた。その残酷な光景を目にした瞬間、彼女の心臓の鼓動は冷たく凍りつくようだった。
艦橋で無線機をひったくったレイナーが、絶叫するように叫んだ。「サラ!聞こえるか?持ちこたえてくれ!俺が何としてでも助けに行くから!」彼は警備兵たちの制止を振り切り、通信コンソールにしがみついた。しかし、すでにハイペリオンはタソニスの軌道を離脱しつつあり、彼にできることは通信網の向こうから彼女の最期を聞くことだけだった。
ケリガンはヘルメット越しに聞こえるレイナーの切迫した声と、遠ざかる艦隊の軌跡から、すべての状況を直感した。自分が徹底的に利用され、見捨てられたという恐ろしい真実が彼女の脳裏を打ちのめした。一生を連合の道具として生き、ようやく自由を手に入れたと信じていたのに、結局はまた別の裏切り者の手によって死を迎えることになったのだ。
「アークチュラス……この野郎……」彼女の唇から、骨に染みるような呪いの言葉が漏れた。それは自分を欺いたメンスクへの怒りであり、自身の愚かな信頼に対する悔恨だった。彼女は近づいてくる巨大なウルトラリスクの影を見上げ、拳銃のスライドを引いた。人間としての最後の抵抗だった。
「ジム……気をつけてね」通信網を通じて伝えられた彼女の最後の言葉は、奇妙なほど穏やかだった。直後、肉を引き裂くような怪物たちの凄まじい咆哮と銃声が、通信機を切り裂かんばかりに満たした。ケリガンは自分に向かって襲いかかる無数の爪と牙に向けて引き金を弾き、タソニスの濃い土煙の中へと完全に姿を消した。
ピーという鋭い摩擦音とともに、通信は完全に途絶えた。艦橋のスピーカーからは、もはや何の音も聞こえなくなった。恐ろしいほどの静寂がハイペリオンの艦橋を重く押しつぶした。戦術モニターで点滅していたケリガンのバイタルサインは赤色に変わり、やがて黒い画面の中へと永遠に消え去ってしまった。
レイナーは通信コンソールに額を押し当てたまま崩れ落ちた。彼の肩は微かに震え、固く握りしめた拳の間から赤い血がにじみ出て床へとポタポタと滴り落ちた。仲間を守れなかったという罪悪感と、メンスクに対する抑えきれない憎悪が彼の魂を蝕み始めた。ゴーストのエージェント、サラ・ケリガンは、こうしてタソニスに取り残された。
ドミニオンの誕生と脱出

ケリガンが冷酷な戦場に一人遺棄され行方不明になった事件は、レイナーに残されていた最後の未練さえも粉々に打ち砕いた。彼はもはや、この恐るべき虐殺者と一秒たりとも共にいることはできなかった。レイナーは自分に従うマ・サラ出身の民兵たちと忠実な隊員たちを、密かに格納庫へと招集した。彼の眼差しは、悲しみを超えた冷たい決意で輝いていた。
「俺たちは今日限りでコラールの息子達を脱退する。メンスクは連合以上の怪物だ。俺たちは俺たちの道を行く」レイナーの断固たる宣言に、隊員たちは黙ってうなずき、武器を手にした。彼らは迅速に輸送船や戦闘機に乗り込み、離陸の準備を整えた。生きてこの地獄を脱出することだけが、彼らの唯一の目標だった。
レイナーと彼の追随者たちがコラールの息子達の旗艦であるハイペリオンを電撃的に奪取して軌道を離脱すると、メンスクの忠誠派部隊が即座に警告放送を送りながら追撃してきた。「反逆者ジム・レイナー、今すぐエンジンを停止し降伏せよ!」しかしレイナーは、奪取したハイペリオンの艦砲を発射し、包囲網を突破し始めた。宇宙空間で、昨日の同志たちが互いに銃口を向け合う悲劇が繰り広げられた。
脱出するためには、タソニス軌道を防衛する巨大なイオン砲防衛線を突破しなければならなかった。レイナーは優れた操縦技術と戦術で防衛塔の死角に入り込み、集中砲火を浴びせた。巨大な爆発とともにイオン砲の動力炉が破壊されて軌道に隙間が生じ、レイナーの艦隊はその隙を突いて次元跳躍エンジンを最大出力で稼働させた。
艦船が跳躍の光に包まれる直前、メンスクのホログラム放送が全セクターのすべての通信網を強制的に占拠して響き渡った。「テラン連合は崩壊した。彼らの腐敗と無能が、この恐るべき異星人の侵攻を招いたのだ」数十億の死体の上で響き渡る彼の声は、勝利感と傲慢さに満ちていた。
「しかし、人類は滅びない。今日、私はこの灰の中から新たな帝国の誕生を宣言する。テラン・ドミニオンが諸君を保護するであろう!」メンスクは自らを人類の救世主、そして皇帝と称し、狂気に満ちた演説を続けた。彼の背後では、タソニスが吐き出す黒い煙と炎が、巨大な後光のように揺らめいていた。
レイナーは奪取したハイペリオンの艦橋に立ち、そのおぞましい演説を黙って聞きながら、乱暴に通信機を切った。独裁者を打ち倒した場所に、さらに巨大で恐ろしい独裁者が君臨するという惨憺たる現実が、彼の胸を重く締め付けた。彼はタソニスの地獄の中に一人取り残してきたケリガンの最後の声を思い出し、深く暗い苦痛の中に沈んでいった。
艦船が次元跳躍の閃光の中へと吸い込まれ、タソニスの惨状はレイナーの視野から遠ざかっていった。しかし、彼の魂に刻まれた傷と罪悪感は、決して消えることはないだろう。果てしない宇宙の闇の中へと進むレイナーの後ろ姿は、すべてを失った者の凄まじい孤独と、拭い去れない悲しみに深く染まっていた。
コメント 1
원작의 사건을 작가님만의 시선으로 재구성한 점이 인상적입니다. 혹시 케리건이 남긴 마지막 통신을 레이너가 들었을 때, 그가 멩스크를 직접 공격하지 않고 히페리온 탈취를 선택한 심리적 배경을 서사적으로 어떻게 해석하셨는지 궁금합니다.