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ディアブロ年代記 第25話:残された研究ノートと偽りの救済者

この物語の目次
  1. イシャリの聖所の悲劇
  2. 残された知恵
  3. 偽りの救済者の到来
  4. スコーボスの警戒
  5. 欺瞞と操り
  6. 失墜した信頼
  7. 内なる影
  8. 不穏な同盟
  9. 確認された資料

原作の出来事を基に新たに執筆されたファン二次創作小説です。登場人物の感情や台詞、場面の雰囲気は再構成されており、主要な結末を含みます。

イシャリの聖所の悲劇

AI復元イラスト:崩壊したイシャリの聖所で、ネイレルの亡きがらの傍らで膝をつき悲嘆に暮れるロラス。
AI復元イラスト:崩壊したイシャリの聖所で、ネイレルの亡きがらの傍らで膝をつき悲嘆に暮れるロラス。

イシャリの聖所の壮大だった大門は、黒く焦げたまま崩れ落ちていた。放浪者とロラスが慎重に聖所の内部へと足を踏み入れたとき、二人を迎えたのは、鼻を突く煙と灰色の静寂だけだった。かつて数多くの学者や魔術師たちが知恵を分かち合った図書館は、無残に焼け落ち、骨組みだけを残して痛々しく佇んでいた。

「嘘だ、頼むから……」ロラスの声が微かに震えた。彼は灰燼と化した書棚の間を、慌ててかき分けながら進んだ。放浪者もまた武器を固く握りしめて周囲を警戒したが、ここに残された脅威はなかった。ただ、破壊が残した冷たい残骸だけが、二人の足取りを重く押しつぶしているかのようだった。

崩れ落ちた中央祭壇の近くで、放浪者の視線が一点に留まった。そこには、埃と灰に覆われた小さなうずくまる人影が、静かに横たわっていた。放浪者は息を潜めて近づき、その人影の肩をそっと回した。灰色の顔の上に、平穏と深い疲労が交錯するネイレルの青白い顔が現れた。

ロラスはその場にへたり込んだ。彼の無骨な手がネイレルの冷たい頬を包み込んだが、すでに彼女の体からは何の温もりも感じられなかった。幼い少女が一人で背負わねばならなかったソウルストーンの重みと、メフィストの果てしない囁きが、結局彼女の生命力をすべて蝕み尽くしたに違いなかった。

「私が……私が重荷を背負わせてしまった。この幼い子にすべてを押し付け、逃げ出したも同然だ」ロラスの目から大粒の涙がこぼれ落ち、ネイレルの襟元を濡らした。放浪者は何も言わず、ロラスの肩に手を置いた。慰めの言葉さえ、今の惨憺たる現実の前では、ただの虚しい空虚な木霊のように感じられた。

ネイレルの遺体は残酷に損なわれてはいなかったが、その固くこわばった表情は、生の最後の瞬間まで激しく抵抗していたことを物語っていた。固く握りしめられた両手には、何かを守ろうとした痕跡が歴然としていた。放浪者は彼女の固まった手をそっと撫でながら、彼女が味わったであろう凄まじい孤独と恐怖を心の底から哀悼した。

「彼女は最後まで戦ったのだ、ロラス。あなたを恨んではいなかったはずだ」放浪者の低い声に、ロラスはうつむいたまま嗚咽を漏らした。ホラドリムの最後の学者として、そして仲間としてロラスが抱く罪悪感は、いかなる武器よりも鋭く彼の胸を抉り取っていた。

聖所の崩れた天井の隙間から、かすかな光が差し込み、ネイレルの傍らを照らした。放浪者は彼女の遺体をまっすぐに寝かせ、周囲から無事な布を探し出して彼女の体を覆った。これが、彼らがこの幼き英雄に捧げられる唯一にして最後の敬意だった。

残された知恵

AI再構成挿絵 — 焼け落ちた図書館でネイレルの研究ノートを読みながら、悲嘆に暮れるロラスと放浪者。
AI再構成挿絵 — 焼け落ちた図書館でネイレルの研究ノートを読みながら、悲嘆に暮れるロラスと放浪者。

ネイレルの固く閉ざされた手の中から、何かカサカサと音がした。放浪者が慎重に彼女の指を広げると、半分焼け焦げた革装丁の研究ノートが姿を現した。表紙は炎に燻されて判別し難かったが、内側の羊皮紙は、ネイレルが最後の瞬間まで自らの体で覆って守り抜いたおかげで無事だった。

ロラスは震える手でノートを受け取った。ページをめくるたびに、ネイレルの切迫した、切実な筆跡が目に飛び込んできた。「メフィストの囁きがますます大きくなる。ソウルストーンは限界に達した。だが、私は諦めるわけにはいかない。ラトマの予言に隠された真実を見つけ出さねばならない」それがノートの最初の一節だった。

ノートには、サンクチュアリの創造者たちや古代の魔術に関する複雑な図式がびっしりと描かれていた。ネイレルはメフィストを永遠に封印するか、あるいは破壊する方法を見つけ出すため、イシャリの聖所の禁じられた書庫まで漁っていたのだ。ロラスは、彼女が一人で背負ったであろう膨大な知識の重みに、再び深い溜息を漏らした。

「ここを見ろ。ラズマの予言は単なる終末を意味するものではなかったんだ。」ロラスが赤いインクで下線が引かれた文章を指差した。そこにはリリスの名前と共に、彼女の体から剥がれ落ちた骨で作られた武器についての言及があった。ネイレルは、その武器だけが大悪魔の精髄を斬ることができると固く信じていた。

「リリスの武器だと。彼女はすでに我々が倒したのではないか?」放浪者の問いに、ロラスは首を横に振った。「肉体は破壊されたが、彼女が残した遺物はどこかに存在する可能性がある。ネイレルはこの武器を探し出し、メフィストの肉体降臨を阻止しようとしていたのだ」ロラスの声に、次第に力がこもり始めた。

ノートの最後のページには、涙の跡で滲んだインクが残っていた。「ロラスおじさん、放浪者さん。私が失敗しても、どうか悲しまないでください。私は自分の選択を後悔していません。どうかこの記録が、お二人の行く手を照らす光となりますように」その短い遺言は、二人の胸に消えない火を灯した。

ロラスはノートを胸の奥深くに抱き、立ち上がった。悲しみに暮れている時間さえ、彼らにとっては贅沢だった。ネイレルが命を賭して残してくれたこの手がかりを無駄にするわけにはいかなかった。彼は固い決意を宿した眼差しで放浪者を見つめた。「我々が終止符を打たねばならん。この子の犠牲を無駄にしないためにも」

放浪者もまた武器を握り直し、頷いた。イシャリの聖所の残骸の中で、彼らはネイレルに無言の別れを告げた。彼女の肉体は冷たい灰の中に残されたが、彼女が残した意志と知恵は二人の歩みを導く灯火となり、新たな旅の始まりを告げていた。

偽りの救済者の到来

AI復元イラスト:スコーボスで巡礼者たちに偽りの癒やしの奇跡を施す、アカラトに化けたメフィスト。
AI復元イラスト:スコーボスで巡礼者たちに偽りの癒やしの奇跡を施す、アカラトに化けたメフィスト。

スコーボス諸島の青い海の上を、巨大な帆を掲げた巡礼船が絶え間なく集まってきていた。絶望に陥ったサンクチュアリの民は、新たな救済者の噂を聞きつけ、この不毛な島国までの険しい旅路を厭わなかった。彼らの目には、ただ盲目的な希望と、狂気に近い熱望だけが満ちていた。

巨大な広場の中央、眩い光を放ちながら一人の男が立っていた。彼は伝説のアカラットの完璧な肉体の姿をしており、慈悲深い微笑みで巡礼者たちを見下ろしていた。しかし、その光の殻の内側には、恐るべき憎悪の帝王メフィストの狡猾な魂が潜んでいることを知る者は誰もいなかった。

「我が子らよ、恐れるな。長き苦難の夜は終わり、今や光の時代が到来したのだ」メフィストの声は、アカラットの聖なる声を模して、柔らかく穏やかに響き渡った。その声を聞いた瞬間、数多くの巡礼者が感激のあまり床にひれ伏し、涙を流した。

しかし、メフィストの瞳の奥深くには、人間たちの愚かさを嘲笑う冷ややかな光がよぎっていた。彼はアカラットの純粋な霊力を利用し、人々の心に潜む小さな不満と憎悪を密かに増幅させていた。救済を装った彼の差し伸べる手は、実際には破滅へと導く毒薬に他ならなかった。

病める者たちが前に進み出ると、メフィストは慈愛に満ちた手で彼らの額に触れた。光が閃き、傷が癒えて病が治るという奇跡が起きた。群衆は熱狂し、アカラットの名を連呼した。彼らは目の前の奇跡に目を奪われ、癒やされた者たちの眼差しが妙に濁っていることに全く気づかなかった。

「お前たちを抑圧するすべての軛を断ち切れ。真の自由は、自らの力で勝ち取る者だけのものだ」メフィストの演説は、次第に奇妙な方向へと流れていった。平和と調和を語っているようでありながら、その裏には既存の秩序や権威に対する反逆を煽る巧妙な扇動が、毒蛇のようにとぐろを巻いていた。

巡礼者たちは彼の一言一言に熱狂的に歓声を上げ、拳を突き上げた。広場は瞬く間に、盲目的な信仰と抑圧された怒りが入り混じる巨大な溶鉱炉へと変貌した。メフィストはこの混沌のエネルギーを吸収し、アカラットの肉体の中で自らの本来の力を徐々に取り戻しつつあった。

彼は遠くスコーボスの壮麗な神殿を見つめ、微かに口元を歪めた。この島の女王とアマゾンの戦士たちはまだ彼の支配下に及んでいなかったが、それも時間の問題に過ぎなかった。偽りの救済者の仮面を被った憎悪の帝王は、サンクチュアリ全土を自らの足元にひれ伏させる完璧な舞台を、着々と完成させつつあった。

スコーボスの警戒

AI再構築イラスト: SkovosのAdreona女王が、黄金の玉座の間でLorathの警告を懐疑的に聞いている。
AI再構築イラスト: SkovosのAdreona女王が、黄金の玉座の間でLorathの警告を懐疑的に聞いている。

スコーボス諸島の深い密林の奥深く、アマゾンたちの都市は厳格な規律と絶え間ない訓練の熱気に満ちていた。黄金の鎧を身にまとった女戦士たちは、鋭い槍を振るい、絶えず武芸を磨いていた。外部の脅威から自らの領土を守り抜いてきた彼女たちの動きには、一分の迷いもなかった。

巨大な大理石の柱が立ち並ぶ玉座の間で、女王アドレオナは険しい表情で報告を受けていた。彼女の鋭い眼光は、最近海岸へと押し寄せる異邦人たちと、彼らが信奉する正体不明の救済者に対する警戒心で輝いていた。アマゾンの長い歴史は、盲目的な信仰がもたらす破局を熟知していた。

「その光り輝く者が奇跡を行うというが、私の目にはただの巧妙な幻術にしか見えん。警戒を二倍に強化し、部外者の都への立ち入りを全面的に統制せよ」アドレオナの断固たる命令に、護衛兵たちは槍を床に叩きつけて服従を示した。彼女は決してスコーボスを虚しい狂気に明け渡すつもりはなかった。

まさにその時、玉座の間の扉が開き、ロラスと放浪者が護衛兵たちの厳重な監視のもとに入ってきた。遥かなる道を駆け抜けてきた二人の身なりはみすぼらしかったが、その眼差しだけは切迫し、強烈だった。アドレオナは頬杖をついたまま、この招かれざる客たちを冷ややかに見下ろし、彼らが口を開くのを待った。

「偉大なる女王よ、無礼をお許しください。しかし、スコーボスに迫る恐るべき災厄を警告するために参りました」ロラスが一歩前に踏み出し、切迫した様子で口を開いた。「海岸に留まっているあの者はアカラットではない。彼はアカラットの肉体を盗んだ大悪魔メフィストなのだ!」

アドレオナの眉間が狭まった。「大悪魔だと?ホラドリムの老学者よ、お前の言葉はあまりにも荒唐無稽だ。あの者が本当に悪魔であるなら、なぜ病人を癒やし、平和を説くというのだ?」女王の声には明らかな不信感が漂っていた。彼女にとってロラスの警告は、ただの異端者たちの戯言にしか聞こえなかった。

放浪者が進み出て加勢した。「彼の治療は欺瞞です。彼は人々の心に憎悪の種を植え付け、勢力を結集させています。どうか我々の言葉を信じ、彼を追い出さねばなりません」放浪者の真摯な訴えにもかかわらず、アドレオナの表情は岩のように固くこわばり、和らぐ気配は見えなかった。

「スコーボスの安寧は私が決める。異邦人たちの戦いに、我が戦士たちの血を流させるわけにはいかん。今すぐこの者たちを外へ連れ出せ」アドレオナが手を振ると、護衛兵たちが槍先を向けて近づいてきた。ロラスは絶望的な表情で唇を噛み締め、放浪者は武器を握る手の力を抜き、状況を見守るしかなかった。

欺瞞と操り

AI復元イラスト:操られたロラスに襲撃された後、アカラトの姿をしたメフィストがアドレオナ女王を癒やす場面。
AI復元イラスト:操られたロラスに襲撃された後、アカラトの姿をしたメフィストがアドレオナ女王を癒やす場面。

ロラスがもう一度口を開き、女王を説得しようとした瞬間、彼の脳裏を鋭い耳鳴りが襲った。目の前が赤く染まり、耳元にはメフィストの不気味な笑い声が響き渡った。「愚かな老人め、お前が私を止められるとでも思ったか?」目に見えない悪の気配が、ロラスの神経を完全に掌握した。

ロラスの両目の焦点が失われ、濁った灰色へと変わった。彼の意志とは無関係に手が動き、腰に差していた短剣を電光石火の速さで引き抜いた。放浪者が止める間もなく、ロラスは獣のような咆哮を上げながら壇上へと跳躍し、女王アドレオナに向けて刃を振り下ろした。

「ロラス!駄目だ!」放浪者が急いで叫びながら手を伸ばしたが、すでに遅かった。アドレオナは本能的に身をかわしたが、ロラスの短剣は彼女の肩を深く切り裂いた。赤い血が黄金の鎧の上に飛び散り、玉座の間は瞬く間に驚愕と混沌の坩堝と化した。

護衛兵たちが怒りに満ちた叫び声を上げてロラスに襲いかかった。重い槍の柄がロラスの背中を強打し、彼は悲鳴を上げて床に転がった。放浪者が武器を抜こうとしたが、無数の槍先が放浪者の首元を狙い、動きを封じた。ロラスは依然として獣のように荒い息を吐きながらもがいていた。

その時、固く閉ざされていた玉座の間の扉が勢いよく開き、眩い光が差し込んできた。アカラットの姿を模したメフィストが、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながらゆっくりと歩み入ってきた。彼の登場に、アマゾンの護衛兵たちさえも放たれる聖なる気配に圧倒され、無意識のうちに道を譲ってしまった。

メフィストは血を流して座り込むアドレオナに近づいた。「おお、高貴なる女王よ。闇に染まりし者の凶計によって傷を負われましたか」彼は優しく囁き、手から温かい光を放って女王の傷を包み込んだ。切り傷は瞬く間に塞がり、痛みは綺麗に消え去った。

アドレオナは警戒を解くまいとしたが、目の前で起きた奇跡と体を包み込む平穏に、次第にその瞳が揺らぎ始めた。「あなたが……本当に私を救ってくださったのか?」彼女の震える問いに、メフィストは穏やかに頷いた。完璧に計算された偽りの救済の演劇が、華々しく幕を閉じる瞬間だった。

メフィストは床に組み伏せられたロラスに向けて、悲しげな表情を見せた。「悪魔の甘言に惑わされ、理性を失った哀れな魂よ。お前の罪を許そう」その忌まわしい宣言とともに、ロラスの精神を縛り付けていた魔の手が瞬時に解かれた。正気を取り戻したロラスは、自らが犯した過ちに気づき、驚愕の悲鳴を上げた。

失墜した信頼

AI復元イラスト:スコーボスの城壁の外で、絶望するロラスを慰める放浪者。
AI復元イラスト:スコーボスの城壁の外で、絶望するロラスを慰める放浪者。

「違う!私がやったのではない!あ奴が私の精神を操ったのだ!」ロラスは縛られたまま床に伏し、血を吐くように絶叫した。しかし、彼の叫びはすでに冷めきった玉座の間の中で、虚しく霧散するだけだった。アマゾンの戦士たちの目には、ただ女王を暗殺しようとした卑劣な老人の姿しか映っていなかった。

アドレオナは傷の癒えた肩を押さえながら、冷ややかにロラスを見下ろした。「黙れ、暗殺者め。お前のその醜い言い訳は、私の耳を汚すだけだ。光の使者がいなければ、私はお前の刃に命を落としていただろう」女王の声には、深い怒りと裏切られたという思いが込められていた。

メフィストはアドレオナの傍らに立ち、勝者の微笑みを巧妙に隠しながら、放浪者とロラスを見つめた。彼の眼差しは『お前たちは決して私に勝てない』と嘲笑っていた。ロラスはその視線と交わった瞬間、全身の血が凍りつくような絶望感に襲われた。彼が一生を捧げて守り抜いてきたホラドリムの名誉が、泥沼に叩き落とされた瞬間だった。

「この者たちの首をはねよ!」アドレオナの氷のように冷たい命令が下ると、護衛兵たちが槍を突き上げた。その時、放浪者が猛烈な勢いで立ち上がり、護衛兵たちを押し退けてロラスの前に立ちはだかった。「この者は操られていただけだ!我々を殺せば、あなた方は真の敵に欺かれることになる!」

放浪者の眼差しから放たれる殺気と決然とした態度に、護衛兵たちは思わず後ずさりした。アドレオナはしばし葛藤するように見えたが、手を挙げて兵士たちを制した。「よかろう。我が神聖な宮殿を血で汚したくはない。今すぐこの島から立ち去れ。二度と私の前に姿を現すな、その時は容赦なく切り捨てる」

武装解除されたままスコーボスの郊外へと追放されたロラスは、泥の地面にへたり込み、両手で顔を覆った。「終わった……メフィストが女王の信任まで得てしまった。私は何も阻止できず、むしろ奴の計画を手助けした形になってしまった」彼の声は、深い自己嫌悪と敗北感で無残に掠れていた。

放浪者はロラスの傍らに膝をつき、彼の震える肩をしっかりと掴んだ。「諦めるには早すぎます、ロラス。あなたの過ちではないことは、私が知っています。奴は我々を分裂させようとしていますが、私はあなたを見捨てはしません」放浪者の断固たる慰めに、ロラスはゆっくりと顔を上げた。

「ネイレルが遺したノートを思い出してください。我々にはまだ、リリスの武器という希望が残されています。メフィストの幻術が届かない場所で、次の方法を探さねばなりません」放浪者の言葉に、ロラスの曇っていた瞳に微かな火花が再び灯った。彼らは絶望の沼から辛うじて立ち上がり、新たな道へと顔を向けた。

内なる影

AI復元イラスト:赤い霧が立ち込める超現実的な精神世界で、リリスの精神と対峙する放浪者。
AI復元イラスト:赤い霧が立ち込める超現実的な精神世界で、リリスの精神と対峙する放浪者。

スコーボスの人跡稀な洞窟の奥深く、放浪者はネイレルの研究ノートを広げ、結跏趺坐(けっかふざ)を組んだ。ノートに記された古代の瞑想法は、視覚を遮断し、内なる深い深淵へと沈潜する危険な儀式だった。放浪者は目を閉じ、黒い布で両目を固く覆ったまま、自らの血の中に流れる微かな脈動にすべての神経を集中させた。

周囲の雑音が次第に遠ざかり、冷たい洞窟の空気さえも感じられなくなった。放浪者の意識は、底の知れない暗い奈落へと真っ逆さまに落ちていった。時間と空間の感覚が消失したその場所は、ただ赤い霧だけが立ち込める、奇怪で静まり返った精神の領域だった。

放浪者がゆっくりと目を開けると、視界を遮っていた布は影も形もなく、足元には粘り気のある血の海が波打っていた。ここは放浪者の肉体ではなく、かつてリリスの血を飲んで以来、魂の奥深くに刻まれた結束の空間だった。赤い霧の向こうから、巨大で威圧的な影が徐々に姿を現し始めた。

「ついに私の元へと戻ってきたのだな、我が子よ」骨の髄まで染み渡るような、魅惑的で冷ややかな声が空間に響いた。霧が晴れ、角を持つ高貴な姿の悪魔、リリスの霊が放浪者の目の前に降臨した。彼女の肉体は破壊されたが、放浪者の血の中に残された精髄が、彼女の魂をこの内なる空間に繋ぎ止めていたのだ。

放浪者は反射的に武器を探そうとしたが、この精神の空間に物理的な武器は存在しなかった。「お前を復活させに来たのではない。メフィストを止める方法を見つけ出すため、この呪われた血の繋がりを利用したに過ぎない」放浪者は恐怖を抑え込み、断固として叫んだ。

リリスは優雅な足取りで近づき、放浪者の顎をそっと撫でようとした。放浪者が首を振って避けると、彼女は薄い笑みを浮かべて手を引いた。「私の父はサンクチュアリを貪り尽くすだろう。お前たち凡夫の力だけでは、あの狡猾な老人を決して止められないことを、お前もすでに悟っているはずだが?」

「だからお前の武器が必要なのだ。ネイレルのノートに記されていた、お前の骨で作られたというあの短剣がな」放浪者の言葉に、リリスの瞳が興味深そうに輝いた。彼女はしばし過去の記憶を辿るように視線を虚空へと向け、やがて落ち着いた声で口を開いた。

「あの短剣は、私の最初の子であるラトマに贈ろうとした贈り物だった。だが、あの愚かな子は私の提案を拒絶し、運命から逃れようとしたのだ」リリスの声には、微かな悲しみと怒りが混じっていた。彼女は再び放浪者を直視し、この内なる邂逅がサンクチュアリの運命を変える新たな転換点となることを予告した。

不穏な同盟

AI復元イラスト:暗い洞窟で目を覚ます放浪者と、心配そうに見守るロラス。
AI復元イラスト:暗い洞窟で目を覚ます放浪者と、心配そうに見守るロラス。

「私の骨で鍛え上げられた短剣は、単なる武器ではない。それは悪魔の精髄を切り裂き、魂の結束を断ち切ることができる唯一の鍵だ」リリスが赤い霧の中を歩みながら説明した。彼女の一歩ごとに、足元の血の海が奇怪な紋様を描きながら波紋を広げた。放浪者は彼女のあらゆる動きを一瞬たりとも見逃さずに注視した。

「その短剣でメフィストを突き刺せば、奴を地獄へ送り返すのではなく、永遠の虚無へと追放することができる。肉体と魂が分離され、いかなる次元にも存在できなくなるのだ」リリスの提案は、放浪者の心臓を激しく鼓動させた。地獄での果てしない復活を阻止できるというのは、奇跡に近い希望だった。

放浪者は疑わしげな眼差しでリリスを睨みつけた。「なぜお前が我々を助ける?お前もまたサンクチュアリを支配しようとした悪魔ではないか。この協力の代償として私の肉体を奪い、復活しようという魂胆なら、今すぐやめろ」放浪者の鋭い指摘に、リリスは軽やかに声を上げて笑った。

「私の肉体はすでに霧散しており、このわずかな精髄だけでは復活などできん。私はただ、我が父が私の創造したサンクチュアリを破壊するのを黙って見ていられないだけだ」リリスの瞳が一瞬、冷ややかに沈んだ。「お前は私を信じないだろうが、今のお前に他に選択肢があるのか?」

放浪者は沈黙した。ロラスは絶望に沈み、スコーボスの女王はメフィストの嘘に騙された。放浪者一人で大悪魔の軍勢に立ち向かうことはできなかった。リリスとの協力は毒の入った聖杯を飲み干すようなものだったが、メフィストを虚無へと永遠に追放できるのであれば、その危険を冒す価値は十分にあった。

「いいだろう。お前の短剣を探すことに同意する。だが肝に銘じておけ。お前が少しでも私を操ろうとするなら、自ら命を絶ってでもこの血の繋がりを破壊してやる」放浪者の決然たる宣言に、リリスは満足そうに頷いた。互いを憎み合いながらも、目的のために手を結ぶ不穏な同盟が成立した瞬間だった。

「短剣はいくつかの破片に分かれ、サンクチュアリの至る所に隠されている。私がその場所へお前を導こう。だが急がねばならん。我が父の力が完全に回復する前に終わらせねばならないからな」リリスの姿が次第に赤い霧の中へと溶けていき始めた。内なる空間が崩壊し、現実の感覚が放浪者を強く引き戻した。

放浪者は荒い息を吐きながら、目を覆っていた布を脱ぎ捨てた。冷たい洞窟の空気が肺を突き刺し、現実に戻ったことを知らせた。傍らで心配そうな眼差しで見守っていたロラスが近づいてきた。放浪者は額ににじむ冷や汗を拭いながら、暗闇の中で見出した危うい希望の火種をロラスに伝えるため、ゆっくりと口を開いた。

確認された資料

Blizzard・ネイレルの追悼記録

Blizzard・憎悪の帝王キャンペーンとスコーボス

GameSpot・ブリザード開発陣の憎悪の帝王インタビュー

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