ディアブロ年代記 第8話 · 姉妹団の野営地に残る灯火
この物語の目次
原作の出来事をもとに新たに書き下ろしたファンフィクションです。登場人物の感情や台詞、場面の雰囲気は再構成されており、主要な結末を含みます。
ローグの野営地の生存者たち

絶え間なく降り注ぐ冷たい雨が、姉妹団の野営地を泥沼に変えていた。英雄は暗黒の放浪者を追跡した末に、このみすぼらしい避難所に足を踏み入れた。テントの隙間から漏れるかすかな灯火だけが、深く立ち込める絶望をかろうじて押し返していた。英雄の外套は、すでに血と泥で重く濡れていた。
「目盲の姉妹団」を率いる大高僧アカラが、疲れた眼差しで英雄を迎えた。彼女は、修道院が恐ろしい悪魔たちの襲撃を受けて陥落し、数多くの姉妹が堕落するか命を落としたと説明した。アカラの声には、深い悲しみとともに、英雄に対する一抹の期待が混じっていた。
軍事指導者カシャは腕組みをしたまま、警戒心に満ちた視線で英雄を睨みつけた。彼女は部外者を信用しておらず、突然の悪魔の侵攻によって失った部下たちへの罪悪感から神経を尖らせていた。カシャの槍の先は、未だ雨水に洗い流されていない魔物の血で汚れていた。
英雄は、東へと向かった暗黒の放浪者を追わねばならないと断固として告げた。あの放浪者が通り過ぎた場所ごとに悪魔たちが目覚めているという事実は、すでに明白だった。傍らで焚き火にあたっていた大商人ワリヴが英雄の言葉に耳を傾け、重いため息をついた。彼の馬車は固く立ち往生していた。
ワリヴは首を横に振り、東へと続く唯一の関門が、上位悪魔アンダリエルの軍勢によって完全に封鎖されていると警告した。ルート・ゴレインへと向かうためには、必ず修道院を奪還し、アンダリエルを打ち倒さねばならなかった。それは姉妹団の生存だけでなく、英雄の追跡にとっても避けては通れない道だった。
若い鍛冶屋チャルシは、仮設の金床を叩きながら、英雄に向けて希望と悲しみが交錯する微笑みを浮かべた。彼女の槌音は野営地に残された唯一の活気であったが、その裏には故郷を失った恐怖が隠されていた。チャルシは英雄のなまくらな武器を見つめ、喜んで手助けをすると申し出た。
英雄は東への道を開くため、まずこの野営地の生存者たちを助けることを決意した。放浪者の痕跡はすでに修道院の奥深くへと続いており、彼らを見捨てて一人で関門を突破することは不可能に近かった。英雄は剣の柄を握り直し、アカラに何をすべきか尋ねた。
アカラは野営地の外れにある暗い洞窟を指し示した。「悪の巣窟」と呼ばれるその場所に、おぞましい魔物たちが結集し、生存者たちの最後の息の根を止めようとしていた。英雄は風雨を突き抜け、黙々と歩みを進めた。それは長い追跡劇の幕開けであり、姉妹団のための最初の反撃だった。
悪の巣窟の浄化

「悪の巣窟」と呼ばれる湿って薄暗い洞窟の中に入ると、腐肉の臭いと悪魔特有の硫黄の悪臭が鼻を突いた。英雄は松明を高く掲げ、漆黒の闇の中でぎらつく赤い眼光を注視した。洞窟の壁面は正体不明の粘液に覆われ、不気味な脈動を打っていた。
フォールンの群れと、彼らを率いるシャーマンたちが、影の中で不気味な呪文を呟いていた。英雄が武器を抜くと、小さく醜悪な悪魔たちが怪声を上げながら四方から群がってきた。英雄は冷静に盾を構えて最初の攻撃を弾き返し、鋭い反撃で敵の首を切り落とした。
激しい乱戦が繰り広げられる中、英雄がフォールンを倒すたびに、背後に隠れたシャーマンたちが火炎魔法を放ち、死んだ魔物たちを絶え間なく蘇らせた。燃え盛る死体が再び立ち上がる光景は、凄まじい絶望感を与えた。英雄は、この消耗戦が続けば、いずれ自分が力尽きることを悟った。
英雄は戦術を切り替え、前衛のフォールンを無視して洞窟の壁伝いに素早く回り込んだ。慌てたシャーマンが火炎球を放ったが、英雄は身をかがめてそれをかわし、一気に距離を詰めてシャーマンの心臓に刃を突き立てた。復活の呪文が途絶えると、残されたフォールンたちは恐怖に駆られて右往左往し始めた。
その時、洞窟の奥深くから、巨大な巨体を誇るガルガンチュア・ビーストたちが地響きのような足音とともに現れた。鈍く破壊的な拳が英雄の頭部をめがけて振り下ろされた。英雄は狭い洞窟の地形を利用して野獣の攻撃を壁へと誘導し、岩が砕け散る隙を突いて奴の膝を強く斬りつけた。
黒い血と悪臭を放つ体液が、岩の床を赤黒く染めた。英雄は洞窟の隅々まで徹底的に捜索し、ただの一匹の悪魔も生かしてはおかなかった。潜んでいた最後のフォールンさえも英雄の一撃に倒れ、洞窟内にはついに重苦しい沈黙だけが降り降りた。堕落の気配が徐々に晴れ始めた。
最後の魔物が息絶えた瞬間、洞窟の天井の隙間から一筋の澄んだ光が差し込み、浄化の気運が洞窟を満たした。押し潰すようだった悪魔の圧迫感が消え去り、空気は再び冷たく澄み渡った。英雄は血に染まった剣を拭いながら、野営地を脅かしていた最初の災厄を無事に退けたことを直感した。
野営地に戻った英雄に対し、アカラは深い安堵とともに祝福を授けた。悪の巣窟が掃討されたことで、恐怖に怯えていた生存者たちはようやく一息つき、防壁を補修する余裕を得た。カシャの眼差しにも微かな変化が生じたが、彼女は依然として硬い表情で英雄に近づき、さらに過酷な現実を語り始めた。
ブラッド・レイヴンの安息

カシャは普段の強靭な外見とは異なり、微かに震える声でブラッド・レイヴンについて語り始めた。彼女はかつてトリストラムの地下迷宮でディアブロに立ち向かった偉大なローグの英雄モレイナであり、カシャの最も親しい戦友だった。しかし、不運にも暗黒の放浪者が通り過ぎた後、彼女は深淵の闇に屈し、恐ろしい悪魔へと堕落してしまったのだ。
堕落したブラッド・レイヴンは、今や埋葬地に留まり、死んだ姉妹たちの遺体をアンデッドとして蘇らせていた。カシャは、自分の手でかつての戦友を成敗せよという命令を部下たちに下すことはできなかったと語り、英雄に苦渋の任務を依頼した。英雄は彼女の深い喪失感を理解し、黙々と埋葬地へと向かった。
冷たい霧が墓標を包み込む埋葬地に到着すると、大地が腐敗していく臭いが立ち込めていた。英雄が歩みを進めるたびに、腐った土が揺れ動き、おぞましいアンデッドたちが這い出てきた。かつて「目盲の姉妹団」の一員だった者たちは、今や魂を失った飢えた死体となり、英雄を絡め取ろうとした。
墓地の中央に、蒼白な肌と悪意に満ちてぎらつく瞳を持つブラッド・レイヴンが立っていた。彼女は英雄を見つけるやいなや、奇怪な悲鳴を上げて堕落したエネルギーの宿る矢を放ってきた。かつての栄光は影も形もなく、ただ破壊への盲目的な渇望だけが彼女の弓を引かせていた。
英雄は降り注ぐ死の矢を間一髪で回避し、墓標の陰に身を潜めた。ブラッド・レイヴンは人間の限界を超えた速度で移動し、絶えずゾンビを召喚して英雄の退路を断った。彼女の放った矢が墓標を砕き、その破片が英雄の頬をかすめて赤い血が流れ落ちた。
動きの鈍いアンデッドの群れに時間を取られるわけにはいかないと判断した英雄は、盾を前に構えて正面から突撃した。降り注ぐ矢を弾き飛ばしながらブラッド・レイヴンの懐へと飛び込んだ英雄は、彼女が再び弓を構える前に強力な近接攻撃を浴びせた。二人の武器が衝突し、不気味な火花が散った。
激しい攻防の末、英雄の刃がブラッド・レイヴンの胸を深く貫いた。彼女の口から苦悶の悲鳴が沸き起こり、体内に凝縮されていた堕落した電撃エネルギーが四方へと爆発した。光の柱が天へと昇り、彼女の魂はついに恐ろしい呪いから解放され、安息を得た。
英雄はカシャのもとへ戻り、ブラッド・レイヴンの最期を伝えた。カシャはうつむき、必死に涙をこらえながら、亡き戦友へ短い哀悼を捧げた。胸が張り裂けるような喪失ではあったが、カシャは英雄の実力と誠意を完全に信頼するようなり、配下の精鋭ローグ傭兵たちを英雄の旅に同行させた。
トリストラムの惨状とケイン救出

アカラは、ホラドリム最後の生き残りであるデッカード・ケインが、まだトリストラムの廃墟の中で生きているかもしれないと告げた。彼を救出するためには、闇の森に隠されたイニファスの樹皮を探し出し、ケアン・ストーンの秘密を解き明かさねばならなかった。英雄は古代の魔法の痕跡を追い、険しい森へと足を向けた。
闇の森を徘徊する巨大な木の怪物たちを退け、イニファスの樹皮を確保した英雄は、アカラの助けを借りてルーンの順序を解読した。冷たい風が吹き抜ける平原にそびえ立つ古代の石柱に順に魔力を注入すると、石が共鳴し、眩い光を放ち始めた。
ケアン・ストーンの中央で空間が裂け、赤いポータルが開いた。英雄がポータルを越えて到達したトリストラムは、かつての平和な姿は影も形もなく、火炎と灰に覆われた悪夢の地と化していた。地面には残酷に虐殺された村人たちの遺体が転がり、空気中には濃い血生臭さが立ち込めていた。
村の鍛冶屋であったグリスウォルドが恐ろしい呪いを受け、巨大で醜悪なアンデッドへと変貌し、英雄に向かって突進してきた。かつて勇者たちを助けた善良な職人の悲惨な末路に、英雄は奥歯を噛み締めた。英雄は重い心で剣を振るい、苦しむグリスウォルドの魂を永遠の安息へと導いた。
村の中央広場では、デッカード・ケインが木製の檻に閉じ込められ、宙に吊るされていた。その周囲では、凶暴な悪魔たちがクスクスと笑いながら老人を嘲笑っていた。英雄は怒りを胸に悪魔たちの陣形を突破し、彼らをことごとく斬り伏せた後、檻を破壊して疲れ果てたケインを無事に救出した。
縄から解放されたケインは荒い息を吐きながら、英雄に深い感謝を伝えた。彼は、かつてディアブロを打ち倒した勇者アイダンこそが、あの暗黒の放浪者であるという恐るべき真実を認めた。アイダンが自らの額にソウルストーンを埋め込むという誤った決断を下したことが、結局このすべての災厄の始まりであったことを、ケインは惨憺たる思いで打ち明けた。
放浪者はトリストラムを通り過ぎ、破壊と悪魔たちを残して東へと向かった。ケインは、ディアブロの魂がアイダンの肉体と精神を徐々に蝕んでおり、彼が完全に悪魔として覚醒する前に阻止しなければならないと警告した。英雄は、放浪者の背後に忍び寄る巨大な恐怖の影を改めて実感した。
姉妹団の野営地に戻ったケインは、英雄の最も心強い助言者となった。放浪者への追跡は、単なる疑念や直感を超え、世界の滅亡を阻止するための必死の時間との戦いへと変貌した。英雄はケインの知識を頼りに、修道院を掌握したアンダリエルを突破し、東へと進む決意を固めた。
忘れ去られた塔と堕落した修道院

修道院へと続く道中である黒い湿地に入ると、崩れかけた「忘れ去られた塔」が荒涼とした風景の上に陰鬱な影を落としていた。腐敗した沼の悪臭とともに、塔の周囲には正体不明の不気味な魔力が渦巻いていた。英雄は塔の地下から漂い出る濃い血の気配を察知し、足を止めた。
伝説によれば、この塔の主である女伯爵は、永遠の若さを得るために数百人もの処女を犠牲にし、その血の風呂を楽しんだ末に生きたまま埋葬されたと伝えられていた。英雄は崩れた瓦礫をかき分け、塔の暗く迷宮のような地下牢へと降りていった。階段を踏みしめるたびに、湿った石壁から不気味な泣き声が響き渡った。
地下深くへ降りるほど空気は冷たく凍りつき、古い血痕が床を赤く染めていた。怨念に満ちた幽霊たちや、アンダリエルの魔力によって堕落したローグたちが各階に陣取り、英雄の行く手を阻んだ。英雄は闇の中から奇襲を仕掛けてくる敵を盾で押し返し、慎重に下へと進んだ。
最下層に到達すると、巨大な血塗られた祭壇の上で復活した女伯爵が英雄を待ち受けていた。彼女の傍らには、忠実な堕落した手下たちが武器を手にして整列していた。女伯爵が邪悪な呪文を唱えると、床から熱い火炎の壁が湧き上がり、英雄を燃え盛る部屋の中央に閉じ込めてしまった。
英雄は身を焦がすような熱気に耐えながら、炎の隙間へと身を投じた。襲いかかる手下たちの攻撃を軽く受け流し、彼らの急所を突いて無力化した英雄は、真っ直ぐ女伯爵に向かって剣を突き出した。闇の魔法をまとった女伯爵の刃と英雄の剣が激突し、地下牢全体に鋭い破裂音が響き渡った。
激しい接戦の末、英雄の連続した一撃が女伯爵の防御を破り、彼女の体を切り裂いた。女伯爵は呪いの混じった悲鳴を上げ、炎とともに一掴みの灰となって消え去った。彼女が倒れた場所の奥で、英雄は古代のルーンと忘れ去られた金貨が詰まった宝箱を発見した。これは今後の過酷な戦いにおいて、大きな助けとなる貴重な資産だった。
忘れ去られた塔を後にし、再び行軍を続けた英雄は、ついに「目盲の姉妹団」が暮らしていた修道院の巨大な正門にたどり着いた。かつて神聖だった回廊の壁面は、おぞましい血痕と悪魔の象徴によって醜く汚されていた。聖なる気配は完全に消え去り、ただ破壊の痕跡だけが満ちていた。
静寂であるべき修道院の中庭では、飢えた魔物たちの唸り声が絶えずこだましていた。英雄は固く閉ざされた門を力強く押し開け、内部へと足を踏み入れた。姉妹団を破滅へと追いやった堕落の心臓部で、英雄は自らの命をかけた最も凄惨で残酷な戦いが待ち受けていることを直感した。
ホラドリムの金槌の奪還

野営地を出発する前、チャルシは英雄に切実な願いを託していた。姉妹団が修道院から追われる際、持ち出すことができなかった魔力の宿る「ホラドリムの金槌」を取り戻してほしいというものだった。英雄は兵舎エリアへと進入しながら、チャルシの悲しげな眼差しを思い出し、金槌を探すために周囲を見渡した。
兵舎の内部は惨憺たる有様だった。ローグたちの平和な居場所だったそこは、アンダリエルの軍勢によって残酷な屠殺場へと変えられていた。引き裂かれた旗や壊れた家具の間を悪魔たちが徘徊し、犠牲者たちの遺体を損壊していた。英雄は湧き上がる怒りを抑え、静かに敵を一人ずつ仕留めていった。
兵舎の奥深くから、重苦しい金属のぶつかり合う鈍い音が響き渡った。音の発生源である鍛冶場には、恐ろしい筋肉質の巨大な悪魔の鍛冶屋が金床を守るように立っていた。彼の傍らには、チャルシが言っていた光を帯びた「ホラドリムの金槌」が置かれていた。鍛冶屋は侵入者を発見すると、凶暴に咆哮した。
鍛冶屋はその巨体に似合わぬ恐るべき速度で突進し、血に染まった巨大な武器を振り回した。英雄は間一髪で身を転がして攻撃をかわしたが、武器が床を叩きつけるたびに発生する激しい風圧に体がよろめいた。正面から力で立ち向かうのは、自殺行為に等しかった。
英雄は鍛冶場の柱や炉を利用して悪魔の視界を撹乱し、熾烈な持久戦を展開した。鍛冶屋が武器を大きく振り回して隙を見せるたびに、英雄は稲妻のごとく踏み込み、奴の膝や足首の関節を鋭く斬りつけた。悪魔の厚い皮から黒い血が噴き出し、奴の動きは次第に鈍くなっていった。
度重なる攻撃にバランスを崩した鍛冶屋がよろめいた瞬間、英雄は跳躍し、奴の首元に決定的な一撃を突き刺した。巨大な悪魔が地鳴りのような轟音とともに倒れ、息絶えた。英雄は血に染まった手で、金床の上に置かれた「ホラドリムの金槌」を手に取った。金槌から温かい魔力が流れ込んできた。
野営地に戻った英雄がチャルシに「ホラドリムの金槌」を手渡すと、彼女の両目に喜びと感激の涙が浮かんだ。故郷の失われた遺産を取り戻したチャルシは、金槌を胸に抱き、英雄に深い感謝を伝えた。彼女の固い決意が込められた表情は、野営地全体に新たな希望の火種を灯していた。
チャルシは取り戻した金槌の魔力を利用し、英雄の装備に強力な魔法を付与した。新たに鍛え直された武器と防具は、英雄の体に完璧に馴染み、心強い力を吹き込んだ。姉妹団の士気は目に見えて高まり、彼女たちはアンダリエルへの最後の総攻撃を控え、隊列を整えながら闘志を燃やした。
苦悶の乙女アンダリエルの撃破

英雄は修道院の最も深く暗い地下墓地へと足を進めた。階段を下りるほどに空気は粘り気を帯び、息を吸い込むたびに肺を刺すような毒気が感じられた。苦悶の乙女アンダリエルが放つ威圧的な気配が地下全体を押し潰し、英雄の精神を絶えず蝕もうとしていた。
上位悪魔アンダリエルは、暗黒の放浪者が東へと逃亡する時間を稼ぐために、この修道院に召喚された。彼女の隠れ家は、無残に拷問された魂たちの悲鳴と、緑色の猛毒の池で満たされた地獄の縮図だった。英雄は解毒剤のポーションをしっかりと握り締め、毒霧が立ち込める巨大な部屋の中央へと進み出た。
闇の中から醜悪で巨大な姿を現した悪魔の女王が、奇怪な笑い声とともに英雄を見下ろした。彼女の背中から伸びる怪物のような触手からは、致命的な猛毒が滴り落ちていた。アンダリエルが腕を振るうと、四方に毒の波動が放たれ、英雄の息の根を止めようと迫ってきた。
英雄は毒ガスに激しく咳き込みながらも屈することなく、猛然と突撃した。皮膚が焼けただれるような苦痛の中で解毒剤を何度も煽り、アンダリエルの致命的な触手攻撃を盾で防いだ。毒液の付着した盾がジュージューと音を立てて溶けていく中でも、英雄の剣は女王の醜悪な胴体へと向かって放たれた。
アンダリエルは怒りに狂い、凄まじい怪力を発揮して物理的な打撃を浴びせてきた。彼女の攻撃は毒と同じくらい致命的だったが、英雄は彼女が火炎に対して極めて脆弱であるという弱点を見逃さなかった。英雄は松明と火炎魔法が付与された武器を活用し、彼女の体に絶え間なく熱い炎を浴びせかけた。
炎が苦悶の乙女の体を包み込むと、彼女は引き裂かれるような悲鳴を上げて苦悶にのたうち回った。燃え盛る肉体の隙間から、悪魔の黒いエネルギーが制御を失って暴走し始めた。英雄は彼女に反撃の隙を与えず、炎の中へと飛び込んでアンダリエルの心臓に渾身の力を込めて剣を突き立てた。
耳を劈くような最期の断末魔とともに、アンダリエルの巨大な肉体は猛毒と火炎の柱となって爆発し、崩れ落ちた。彼女が消滅すると、地下墓地を満たしていた毒気と堕落の霧が、洗い流されたかのように晴れ始めた。修道院を縛り付けていた恐ろしい呪いが、ついに終焉を迎えた瞬間だった。
灰と悪魔の残骸の中にそびえ立つ英雄は、荒い息を整えながら勝利を噛み締めた。姉妹団を蹂躙し、東への行く手を阻んでいた巨大な障壁が、ついに崩れ去った。英雄は剣を収め、暗黒の放浪者が向かったルート・ゴレインへの道が完全に開かれたことを確認し、引き返した。
東の砂漠へ向かう旅

アンダリエルの死を知らせるために姉妹団の野営地へと戻った英雄を、生存者たちは畏敬の念に満ちた眼差しで迎えた。英雄の口から勝利の知らせが伝えられると、固く凍りついていた野営地に安堵と歓喜の歓声が沸き起こった。長きにわたり抑圧されていた恐怖が消え去り、人々の顔に生気が戻り始めた。
アカラとカシャは、英雄の大いなる献身に深い敬意と感謝を表した。数多くの姉妹を失った悲しみは永遠に残るだろうが、「目盲の姉妹団」はついに廃墟の中から立ち上がり、故郷を再建する希望を手に入れた。カシャは英雄に対し、いつでも姉妹団の剣が必要であれば喜んで力を貸すと誓った。
大商人ワリヴは、立ち往生していた馬車の車輪を点検し、獣たちに荷を積むために忙しく動き回っていた。アンダリエルの封鎖が解かれたことで、彼はついに東へと出発する準備を整えた。ワリヴは英雄に向かって手招きし、険しい砂漠を横断する長い旅に同行する準備はできているかと尋ねた。
デッカード・ケインもまた、古代ホラドリムの巻物を大切に抱えて馬車に乗り込んだ。彼は、暗黒の放浪者が「砂漠の宝石」と呼ばれる港町ルート・ゴレインへと向かったことを確信していた。ディアブロの復活を阻止するため、ケインは英雄の傍らで最後まで知恵を貸すことを決意していた。
馬車に乗り込む前、英雄は最後に姉妹団の野営地を振り返った。絶え間なく降り注いでいた冷たい雨はいつの間にか止んでおり、黒雲の隙間からかすかな陽光が差し込んで濡れた大地を照らしていた。生き残った人々が互いに抱き合い、傷を癒やし合う姿は、英雄の心に深い慰めを与えた。
やがて馬車の車輪が荒い石道を転がり、軋む音とともにキャラバンが出発した。英雄はワリヴの隣に座り、果てしなく広がる荒涼とした地平線を黙って見つめた。修道院での激しい戦いは終わったが、真の敵はまだ遥か東の闇の中で勢力を拡大していた。
放浪者が通り過ぎた後に残された凄惨な破壊の爪痕は、英雄の決意をさらに強固なものにした。かつて世界を救った英雄アイダンの悲劇的な運命と、刻一刻と迫り来る大悪魔ディアブロの影が、英雄の肩に重くのしかかった。決して失敗の許されない荷を背負いながら、英雄は剣の柄をそっと撫でた。
険しい山脈を越え、乾燥した熱い砂漠の砂嵐が吹き荒れ始める中、キャラバンはルート・ゴレインへの旅路に入った。暗黒の放浪者を追う長い追跡劇は、今や新たな危険と古代の秘密が潜む砂の地で英雄を待ち受けており、熱い風だけが彼らの行く手を導いていた。
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