ディアブロ年代記 第10話:クラストの祈りと憎悪の心臓
この物語の目次
原作の出来事をもとに新たに書き下ろしたファン二次創作小説です。登場人物の感情や台詞、場面の雰囲気は再構成されており、主要な結末を含みます。
腐敗した首都、クラスト・ドックに下ろされた錨

メシフの船がクラスト・ドックに錨を下ろすと、海の潮風の代わりに、息を詰まらせるような湿っぽく腐った悪臭が押し寄せてきた。かつてケジスタン帝国の栄光ある首都であったこの都市は、今や沼地に半ば沈んだ巨大な死骸のように見えた。英雄がきしむ木の板を踏みしめて船から降りると、苔に覆われた湿った石畳が鈍い音を立て、四方を囲む濃い霧が不穏な気配を放っていた。
メシフは、自分が記憶していた活気ある故郷が、ジャングルの貪欲な蔓に飲み込まれた惨状を目にし、悲しみと驚愕が交錯する表情を浮かべた。彼は船首に立ってため息をつき、都市全体が正体不明の呪いにかけられ、徐々に死にゆく様を嘆いた。ドックの周辺は、かすかに明滅する魔法の障壁によってかろうじて保護されていたが、その光さえも押し寄せる闇の前では危うく見えた。
魔術師であり鍛冶屋でもあるフラトリが、疲弊した顔で近づいてきて、ドックを包む魔法の障壁は自分の作品だと説明した。彼はハンマーで金床を叩いて武器を鍛え上げると同時に、障壁の魔力を維持していたが、ジャングルから放たれる堕落の気力が強すぎて限界に達しつつあった。彼の額ににじむ汗の粒は、単なる熱気ではなく、生存のための必死の闘争の痕跡だった。
ドックの中心部へと歩みを進めると、奇妙な服装をした男が謎めいた言葉を呟きながら英雄を迎えた。狂気の詩人であり魔術師でもあるオルムスは、自らを三人称で呼び、ザカラム教会の心臓部に深い闇が根を下ろしたことを暗に警告した。彼は英雄の目を射抜くように見つめ、この恐ろしい堕落に立ち向かう資格があることを自ら証明してこそ、ジャングルの秘密を解き明かすことができると語った。
英雄はオルムスの難解な警告を聞きながら、クラストの狂気が都市を守護する者たちの精神さえも蝕んでいることを悟った。オルムスは鬱蒼としたジャングルを指差し、あそこの影は単なる光の不在ではなく、血を渇望する生きた悪の化身なのだと付け加えた。湿地帯から聞こえてくる不気味な鳴き声は、彼の言葉が決して誇張ではないことを証明するかのように、ドックの空気を重く押し潰した。
粗末な小屋の中では、錬金術師アルコアが鼻を突く悪臭を放つ調合物を煮立たせ、研究に没頭していた。彼は英雄が近づく気配にも顔を上げず、世界の破滅よりも自分が収集した希少な薬草や古代の秘術に強い関心を示していた。しかし、ジャングルの毒性植物や怪物たちの生態に関する彼の博識な知識は、この地獄のような場所を突破するために不可欠なものだった。
アルコアは面倒くさそうに愚痴をこぼしながらも、渋々英雄に協力することを約束し、ジャングルのどこかに隠された古代の遺物が旅の大きな助けになるだろうと助言した。英雄は、傷つき変わり者となってしまったこの少数の生存者たちが、絶望に沈む都市を守る最後の防衛線であることを実感した。彼らの危うい姿は、英雄が背負うべき荷の重さをさらに重くするだけだった。
クラストの重苦しい空気が、英雄の肩に物理的な重圧となってのしかかった。障壁の向こうから絶え間なく聞こえてくる見えない野獣たちの咆哮は、ドックの安全がいつ破られるかもわからない幻影にすぎないことを思い出させた。武器を握り直した英雄は、腐りかけた蔓を切り払いながら、恐ろしい堕落の心臓部へと向かう、残酷で長い旅路の第一歩を踏み出した。
ジャングルの腐敗と黄金の鳥がもたらした小さな慰め

フラトリの魔法の障壁を越えた途端、息を詰まらせるような「蜘蛛の森」の熱気が英雄を飲み込んだ。鬱蒼とした茂みの間から、巨大な蜘蛛の群れや堕落した先住民「フェティッシュ」たちが毒針を放ち、四方から奇襲を仕掛けてきた。足を踏み出すたびに、ぬかるむ泥と足首を締め付ける棘の蔓が動きを妨げ、空気中に漂う毒気は肺を刺すように苦しい呼吸を強いた。
ジャングルの腐敗は想像を絶するほど凄まじく、巨大な大樹さえも黒く粘り気のある樹液を血のように流していた。英雄は猛烈に武器を振るい、巨大な蜘蛛の硬い甲殻を打ち砕いたが、果てしなく押し寄せる怪物たちの数は絶望的なほど圧倒的だった。このジャングル全体が、大悪魔たちの意志に従って動き、英雄の命を狙う巨大な生命体も同然だった。
血飛沫が舞う凄絶な殺戮戦が続く中、ひときわ奇怪な姿をしたフェティッシュの首領が倒れ、輝く物を落とした。英雄が泥を拭い取ると、精巧に細工された「翡翠の像」がその玲瓏な姿を現した。恐ろしい悪臭と死だけが満ちる湿地帯で発見されたこの像は、奇妙なほど精緻な温もりを宿しており、英雄の凍てついた感覚をかすかに呼び覚ました。
像を抱えてドックに戻った英雄は、船長メシフを訪ねてそれを見せた。メシフの両目は驚きと深い収集欲で丸くなり、彼は震える手で像を撫でながら、自分が生涯を捧げて探し求めていた珍しい翡翠の像だと説明した。彼は感激に満ちた声で感謝を述べ、像の返礼として、自分が大切に保管してきた神秘的な「黄金の鳥」の像を英雄の手に握らせた。
英雄はその黄金の鳥の像を錬金術師アルコアのもとへ持っていった。いつもは無関心な錬金術師も、その遺物を見るや否や、普段とは違って興奮を隠せなかった。アルコアはすぐに黄金の鳥の内部に収められていた古代の賢者ク・イレの神聖な遺灰を精製し、奇怪な薬草と混ぜ合わせて強力な生命の秘薬を煮出した。彼は赤みを帯びたガラス瓶を英雄に手渡し、これこそが死にゆくこの地で得られる純粋な生命力の精髄だと誇らしげに宣言した。
秘薬を一気に飲み干すと、燃えるような熱さが食道を伝って流れ落ち、やがて強力な活力が全身の血管を駆け巡った。ジャングルをかき分けて進む中で蓄積された凄まじい疲労と傷の痛みが雪のように消え去り、代わりに新たな力と尽きることのない粘り強さが満ちてきた。それは果てしない闇の中で見つけた、小さいながらもあまりに貴重な慰めであり、英雄の肉体を限界の先へと押し進める原動力となった。
この短い休息と予期せぬ祝福は、挫けそうになっていた英雄の意志を再び強固に鍛え直した。堕落した怪物たちにとっては単なる輝く玩具にすぎなかった黄金の鳥が、結果的には英雄がジャングルのさらなる深淵へと進むための命綱となったのだ。英雄は血管を流れる熱い活力を感じながら、まだ征服していない「剥ぎ取りのジャングル」に向けて決然とした視線を向けた。
空からは洗い流す浄化の雨ではなく、大地をさらに粘り気のある恐ろしい泥沼に変える、暑くじめじめとした霧雨が降り始めた。しかし英雄は、泥まみれの中でも揺らぐことなく武器をしっかりと握りしめた。胸の中で猛烈に燃え上がる新たな生命力は、クラストを覆う圧倒的な絶望に立ち向かうという反抗的な炎となり、英雄の足取りを再び闇の中へと導いた。
ラム・エセンの書とザカラム堕落の真実

デッカード・ケインは、雨漏りのする古いテントの下で蝋燭の光を頼りに古い羊皮紙を広げ、物思いに沈んでいた。彼は英雄がジャングルで経験した恐ろしい出来事を聞くと、かつてサンクチュアリで最も輝かしかったザカラム教会が、今や取り返しのつかないほど堕落してしまったことを重苦しい声で断言した。憎悪の帝王メフィストが、彼らの盲目的な信仰を歪め、自身を崇拝する狂気へと変質させたのだ。
アルコアの頼みで、崩れ落ちたクラストの寺院の奥深くからラム・エセンの書を見つけ出した英雄は、それをケインに渡した。ケインは古書の古いページを慎重にめくり、ザカラムの高位評議会がどのようにしてメフィストの狡猾な囁きに屈したのかについての恐ろしい記録を読み進めた。古書には、誘惑のオーブという強力な遺物が信徒たちの精神を支配し、彼らを血に飢えた狂信者に変えたことが明記されていた。
彼らの会話を闇の中から静かに見守っていた影の中の女性が、ゆっくりと姿を現した。自らを秘密結社ヴィズ=ジャク・タールのアサシン、ナターリャと名乗った彼女は、足音さえ立てない洗練された動きで近づいてきた。彼女は、英雄がジャングルで見せた戦闘力を長い間観察しており、大悪魔たちに立ち向かう資格があるかどうかを冷静に評価していたのだと淡々とした口調で明かした。
ナターリャはザカラムの没落を語る際、徹底して冷徹でプロフェッショナルな態度を崩さなかったが、その瞳の奥には、仲間を失った苦い悲しみがかすめていった。彼女はケインの解釈が正確であると同意し、堕落の根が深すぎるため、かつて最も高潔だったパラディンたちでさえ、今や悪魔よりも残酷な殺戮兵器へと変貌してしまったと警告した。
アサシンは、トラヴィンカルを守るハイ・カウンシルのメンバーたちがもはや人間ではなく、純粋な憎悪の器となって黒魔術や異形の力を振るっているのだと説明した。彼女は、何の準備もなく彼らに立ち向かうのは自殺行為に等しいと断言し、唯一堕落に抵抗したかつての指導者が残した聖なる遺物を集めてこそ、彼らの結界を破ることができるだろうと助言した。
ケインはナターリャの言葉にうなずき、メフィストの支配に最後まで抵抗したク=ヘガン・カリムの悲劇的な最期を語って聞かせた。カリムはハイ・カウンシルの中で唯一正気を保っていたが、その代償として堕落した兄弟たちに惨殺され、遺体はバラバラにされてジャングルのあちこちに遺棄された。彼の肉体は引き裂かれたが、悪に屈しなかった彼の意志だけは、遺物の中にそのまま残されていた。
英雄は、自分が果たさねばならない任務の恐ろしい実態を直視し、拳を固く握りしめた。果てしなく押し寄せる狂信者たちを切り伏せるだけでなく、無残に引き裂かれた殉教者の遺体の破片を集め、不浄な儀式を執り行わなければならなかった。ザカラム教会の輝かしい栄光と悲惨な没落の歴史が英雄の肩に重くのしかかり、メフィストの狡猾な悪意がいかに深いかを実感させた。
ナターリャは英雄の決然とした眼差しを確認すると、短い敬意の言葉を残して再び濃い影の中へと姿を消した。ケインと二人きりになった英雄は、古書に記録された地図を頭に叩き込み、次の行動に備えた。進むべき道は明確だったが、その道はかつて光に仕えた者たちの歪んだ死体と、粉々に砕け散った信仰で舗装された血塗られた茨の道だった。
腐敗を断ち切る希望、カリムの遺骸と意志

カリムの散逸した遺骸を探す旅は、英雄をジャングルの最も暗く湿った深淵へと追いやった。ロープのように太い蜘蛛の巣と、猛毒を宿した母蜘蛛たちがうごめく「蜘蛛の洞窟」の奥深くで、英雄はついに「カリムの目」を発見した。血塗られた蜘蛛の巣に絡まりながらも澄んだ光を失わないその瞳は、真実から目を背けなかったク=ヘガンの確固たる眼差しをそのまま宿していた。
旅は、死と黒魔術の儀式が執り行われる恐ろしい迷宮「剥ぎ取りのダンジョン」へと続いた。狂気に憑りつかれたシャーマンたちが致命的な毒針を放つ中、英雄は祭壇の上に安置された「カリムの脳」を確保した。凄まじい拷問の中でも憎悪の帝王に屈しなかった彼の知恵が宿る脳は、今なお微かな神聖なエネルギーを鼓動させ、英雄の指先に温かい温もりを伝えた。
英雄は足を返し、崩壊したクラスト・バザールの地下に広がる巨大な下水道へと降りていった。都市のあらゆる腐った汚物と腐敗が集まるその場所の悪臭は、物理的な打撃のように呼吸を塞いだ。汚物の中から這い出てくるアンデッドの群れを突破して進んだ末に、英雄は腐りかけた泥の山の中でも、純粋で決然とした鼓動を止めない「カリムの心臓」を見つけ出した。
最後に、これらの神聖な精髄を収める器であり武器を手に入れるため、英雄は狂信者たちがうごめくトラヴィンカルの外郭へと潜入した。血に飢えたザカラム信徒たちの猛烈な攻撃を突き破り、祭壇に到達した英雄は、ついに「カリムのフレイル」を手にした。一人で闇に立ち向かった殉教者の義憤が宿るその武器は、ずっしりとした重量感で英雄の手のひらを圧迫した。
波止場に戻った英雄は、血と汚物で汚れたカリムの遺骸をデッカード・ケインの前に慎重に下ろした。老学者は、無残に引き裂かれた殉教者の痕跡を見つめ、深い哀悼と敬畏の念が交差する涙ぐんだ視線を送った。彼は英雄に、ラット・ゴーレインで回収したホラドリムのキューブを取り出し、この恐ろしい欠片を一つに融合させる古代の錬金術を実行するよう指示した。
英雄がホラドリムのキューブの中にカリムの目、脳、心臓、飾りのフレイルを入れ、魔力を注入すると、キューブが激しく振動し始めた。やがて目を開けていられないほど強烈で純粋な光が放たれ、ドックに立ち込めていた闇を一瞬にして追い払った。光が徐々に収まり、キューブの蓋を開けると、そこには恐ろしい遺骸の代わりに、燦然と輝く新たな武器「カリムの意志」が横たわっていた。
新たに鍛え上げられたフレイルは、周囲の毒気を浄化する強力な神聖のオーラを放っていた。それは単なる鉄の塊ではなく、不義に妥協しなかったカリムの絶対的な信仰と義憤が、物理的な形態として具現化した結晶だった。英雄が武器の柄を固く握ると、クラストの絶望的な空気を押し返す強力な神聖の波動が腕を伝って全身へと広がっていった。
「カリムの意志」で武装した英雄は、ついに堕落の根源を断ち切るすべての準備を整えた。トラヴィンカルの中心部では、赤く輝く「誘惑のオーブ」が破壊されるのを待っており、その先にはメフィストが潜む「憎悪の檻」が口を開けていた。粉々に砕け散った一つの宗教の希望が、英雄の手によって、断固として拒絶できない審判の鉄槌へと生まれ変わったのだ。
トラヴィンカルのハイ・カウンシルと誘惑のオーブ破壊

英雄は、かつてザカラムの最も神聖な聖地でありながら、今や血生臭い悪夢へと変貌してしまったトラヴィンカルの巨大な広場に足を踏み入れた。荘厳だった大理石の建築物は悪魔的な力によって奇怪に歪み、祭壇には人間の骨が散乱していた。狂みに満ちた狂信者たちが、憎悪の帝王を称える恐ろしい悲鳴を上げながら、四方から英雄に向かって獣のように襲いかかってきた。
寺院複合体の中心にある巨大な壇上には、堕落したハイ・カウンシルのメンバーたちが陣取っていた。かつて高潔な司祭だった彼らは、今や醜く変異した肉体と悪意に満ちた瞳を持つ怪物へと成り下がっていた。彼らは呪文を唱えて純粋な炎で形成されたハイドラたちを召喚し、空から黒い稲妻を落雷のように浴びせ、英雄の息の根を止めようと迫ってきた。
戦闘は息つく暇もないほど猛烈かつ混沌として展開した。英雄は四方から放たれる炎と稲妻の軌道を間一髪で避けながら、堕落したカウンシルたちに向かって容赦なく突進した。「カリムの意志」が空を切り、敵の防壁を強打するたびに、審判の鐘の音のような澄んだ巨大な破裂音が響き渡り、黒魔術の結界はガラス窓のように粉々に砕け散った。
最後のカウンシルが奇怪な断末魔を上げて倒れると、純白の大理石の床は黒い血と悪臭を放つ体液で赤黒く染まった。英雄は荒い息を吐きながら周囲を見回した。静寂に包まれた寺院の中央には、巨大な「誘惑のオーブ」が鎮座していた。オーブはまるで生きている心臓のように、不穏で催眠的な赤い光を脈打つように放っていた。
誘惑のオーブに近づくほど、それが放つ純粋な悪意が英雄の精神に入り込み、恐ろしい幻聴と絶望的な幻影を植え付けようとした。信念を挫こうとするその狡猾な囁きに、英雄は一瞬めまいを覚えたが、手に握られた「カリムの意志」が絶対的な信頼の共鳴を起こし、精神をクリアに保たせた。英雄は歯を食いしばり、オーブに向けて武器を高く掲げた。
気合とともに英雄が「カリムの意志」を渾身の力で振り下ろすと、フレイルの鉄槌がオーブの真ん中を貫いた。衝突の瞬間、巨大な神聖の衝撃波が爆発し、誘惑のオーブを数千の破片へと粉砕した。トラヴィンカル全体を揺るがす耳を裂くような悲鳴が虚空に響き渡り、長きにわたりクラストを縛り付けていた精神支配の恐ろしい呪いが、ついに打ち砕かれた。
オーブが破壊された場所の大理石の床が裂け、漆黒の地中深くへと続く隠された階段が姿を現した。深淵から吹き上げてくる空気は骨を削るように冷たく、数世紀にわたって凝縮された古代の邪悪な悪臭を孕んでいた。そこはまさに、メフィストが幽閉されていた監獄であり、今や彼の鉄壁の要塞と化した「憎悪の檻」へと続く入り口だった。
英雄は深く息を吸い込み、自分にのしかかる宿命の重さを改めて実感した。外側を取り囲む防衛線を崩すことには成功したが、真の想像を絶する恐怖は、あの暗い地下に潜んでいる。英雄は「カリムの意志」を握り直し、揺るぎない眼差しで、闇が口を開けた階段へと黙々と歩みを進めた。
憎悪の檻で再会した大悪魔たち

英雄がトラヴィンカルの地下階段を降りていたその時刻、「憎悪の檻」の最深階では、凡人の目には届かない恐ろしい再会が行われていた。ここの空気は、現実世界の物理法則さえも歪めるほど濃密な悪意に満ちていた。血で満たされた巨大な水溜まりの上に、骨と引き裂かれた肉片だけが残る醜悪な姿のメフィストが浮かび上がり、誰かを待っていた。
やがて檻の暗い虚空が裂け、黒い炎が渦巻くポータルが開き、その中から「暗黒の放浪者」が歩み出てきた。彼の人間としての肉体はすでに限界に達して崩れ落ちており、裂けた皮膚の隙間から赤く巨大な悪魔の姿が突き破ろうとうごめいていた。彼はもはや、トリストラムを救おうとした悲運の戦士ではなく、完全に覚醒した恐怖の帝王ディアブロだった。
ディアブロの傍らには、凡人タル・ラシャの抜け殻を被ったもう一つの人影が立っていた。砂漠の墓所でマリウスの愚かな行動のおかげでついに解放された、破壊の帝王バアルだった。ホラドリムの結界によって数百年の間、サンクチュアリのあちこちに散り散りに幽閉されていた三兄弟が、ついに憎悪の帝王が用意した安息の地で一つに集まったのだ。
メフィストの骨がきしむような金属音が檻全体に響き渡り、二人の兄弟の帰還を歓迎した。彼はザカラムの高位聖職者たちをどのように堕落させたか、そして自分を閉じ込めていた神聖な監獄をいかにして最も安全な要塞へと変貌させたかを傲慢に語った。長兄である憎悪の帝王は、長年にわたり緻密に兄弟たちの復活と最終的な勝利のための完璧な舞台を用意していたのだ。
ディアブロが口を開くと、檻の頑丈な岩盤が振動するほど恐ろしく重苦しい響きが広がった。彼は地獄へと通じるポータルを開いて自分たちの真の力を取り戻し、待ち構える悪魔の軍勢を招集して、凡人の世界と至高の天界に向けて最後の破滅的な攻撃を敢行するという壮大な計画を宣言した。
バアルは、石が削れ骨が砕けるような奇怪な笑い声を上げ、ディアブロの計画に同調した。彼が破壊的なオーラを放ちながら笑うたびに、檻を支えていた巨大な石柱にひびが入り、破片が降り注ぎ、崩れ落ちた。三人の大悪魔が一堂に会して放つ圧倒的な魔力は、サンクチュアリの根幹を揺るがす破滅の三位一体そのものだった。
メフィストは自身の膨大な魔力を引き集め、檻の奥に位置する巨大な石造りのアーチへと集中させた。血の水溜まりの血と黒いエネルギーが渦巻いてアーチへと吸い込まれ、やがて硫黄の炎と血色の溶岩が吹き荒れる巨大な渦が形成された。それは、サンクチュアリと燃える地獄を直接繋ぐ地獄のポータルが、恐ろしい悲鳴とともに引き裂かれるように開く光景だった。
ディアブロとバアルは躊躇なく地獄のポータルへと歩みを進め、メフィストは兄弟たちが無事に地獄へと渡れるよう、後ろに残って時間を稼ぐことにした。憎悪の帝王は檻の入り口の方へと顔を向け、執拗に自分たちを追跡してきた凡人の英雄の気配を察知した。彼の空ろな眼窩から青白い憎悪の炎が燃え上がり、近づく獲物を迎える準備を整えた。
憎悪の帝王との死闘とソウルストーンの獲得

英雄がようやく「憎悪の檻」の最下層に到達したとき、息を吸うことさえ苦痛なほど濃密な悪意が空間を圧迫していた。部屋の端には、渦巻く地獄の炎で形成された巨大な地獄のポータルが不気味な光を放っていた。そしてその前には、青白い憎悪のオーラをまとった骨と肉片の怪物、メフィストが宙に浮かび、英雄を見下ろしていた。
メフィストは凡人と長く言葉を交わすつもりはなかった。彼は手を伸ばし、部屋全体を凍らせるような猛烈な稲妻の束とフロスト・ノヴァを絶え間なく放った。英雄が反射的に石柱の陰に身を投げた途端、強力な魔法が柱を強打し、鋭い破片が爆発するように四方へと飛び散って英雄の皮膚を切り裂いた。
憎悪の帝王は、巨大な血の川の上を滑るように奇怪かつ迅速な速度で移動し、英雄の死角を狙った。同時に、床から血に濡れたアンデッドの手下たちを絶え間なく召喚し、英雄を圧殺しようとした。英雄は押し寄せる死体どもを切り伏せながら、降り注ぐ魔法を回避しなければならず、一度のミスも許されない極限の生存闘争を強いられた。
防御に徹していては、いずれ干からびて死ぬことを直感した英雄は、魔法の砲火を突き破って正面から突進した。身を切るような冷気と皮膚を焼く稲妻の痛みに歯を食いしばって耐えながら、英雄は大悪魔との距離を縮めた。メフィストの骨でできた奇怪な顔が怒りに歪み、彼は致命的な毒雲を吐き出しながら最後の抵抗を試みた。
戦闘は、血飛沫が舞う打撃と破壊的な魔法が交錯する残酷な乱打戦へと発展した。英雄の武器がメフィストの半透明の肉体に食い込むたびに、鼓膜を裂くような純粋な憎悪の悲鳴が響き渡り、英雄の精神を朦朧とさせた。しかし、英雄は目を眩ませる毒気と苦痛の中でも、決して武器を握る手の力を緩めず、執拗に攻撃を浴びせ続けた。
残されたすべての力を振り絞り、英雄はメフィストの胸骨の真ん中に決定的な一撃を突き刺した。憎悪の帝王は声なき悲鳴を上げて悶え苦しみ、彼の物理的な形態は制御不能なほど崩壊し始めた。メフィストの胴体から青白いエネルギーが爆発的に噴き出し、檻の壁面を激しく揺るがした。
眩い閃光とともにメフィストの骨の山は粉々に砕け散って灰となり、耳を裂くような轟音が消え去った檻には、不気味なほどの深い静寂が訪れた。大悪魔が浮かんでいた血塗られた床の上に、たった一つの物体がぽつりと落ちた。それは、憎悪の帝王の本質を封じ込めている、不穏で濁った光を脈打つように放つ「メフィストのソウルストーン」だった。
英雄は息を切らしながら慎重に近づき、ソウルストーンを拾い上げた。石は氷のように冷たかったが、同時に皮膚を焼くような奇妙な熱を帯びていた。大悪魔の一人を倒したという事実にもかかわらず、勝利の喜びは感じられなかった。真の災厄であるディアブロとバアルは、すでにこの部屋を去り、さらなる破滅を準備していたからだ。
地獄のポータルの先へと向かう決断

英雄は、血生臭い静寂が降りた檻の中央に一人立ち、重いメフィストのソウルストーンをバッグの奥深くへとしまい込んだ。目の前の敵は倒れたが、空間を圧迫する圧倒的な重圧感は少しも衰えなかった。英雄の視線は、自然と部屋の端で今なお猛烈に燃え盛る巨大なアーチ、地獄のポータルへと向けられた。
ポータルの向こうでは、深紅の地獄の業火と濃い影が渦巻き、燃える地獄の恐ろしい光景をうっすらと映し出していた。ポータルから放たれる熱気は息を吸うのも困難なほど熱く、凄まじい硫黄の臭いと肉が焦げるような悪臭が鼻を突いた。それは、凡人が足を踏み入れてはならない、二度と戻れぬ敵陣の心臓部へと続く一方通行の道だった。
デッカード・ケインが警告した恐ろしい予言が、英雄の耳裏に蘇った。ディアブロとバアルはすでにあの門を越えて地獄の軍勢を結集させており、彼らを止められなければ、サンクチュアリは血と炎の津波に完全に飲み込まれることは明白だった。メフィストを倒したことは終わりではなく、真の破滅を防ぐための残酷な序幕にすぎなかった。
英雄は震える手で装備を点検し、武器の刃を確認した。恐怖からではなく、これから立ち向かわねばならない想像を絶する恐怖の重みが、身体を圧迫していたからだ。砂漠のアンデッドやジャングルの堕落した狂信者たちを切り伏せてここまで来たが、悪魔たちの本拠地である地獄へと直接飛び込むことは、次元の違う絶望を意味していた。
しかし、ここで引き返すわけにはいかなかった。地上へと逃げ延びたところで、それはサンクチュアリ全体を大悪魔たちの口へと投げ与える、猶予された死にすぎない。英雄は手のひらに伝わる武器の冷たく硬い感触を頼りに、憎悪の檻が放つ超現実的な恐怖の中で、自らの理性を鋭く研ぎ澄ませた。
ポータルへと一歩ずつ近づくほど、渦巻く地獄の魔力が英雄の衣の裾を強く引き寄せ、永遠の苦痛を約束するかのような幻聴を囁いた。英雄はしばし目を閉じ、トリストラムで犠牲になった無辜の人々、ルート・ガレインの失われた魂、そしてクラストで堕落してしまった司祭たちの悲劇を思い浮かべ、心の中の決意を鋼のように固めた。
深く息を吸い込んだ英雄が再び目を開けたとき、その瞳にはいかなる恐怖も揺るがすことのできない、断固たる使命感が燃え上がっていた。大悪魔たちが地獄の果てへと逃げ去ったとしても、必ずや追跡してディアブロとバアルの首を刎ね、この長い悪夢に終止符を打つという、自らの魂さえも賭けた誓いだった。
英雄は躊躇なく足を踏み出し、猛烈に燃え盛る地獄のポータルの中へと身を投じた。視界を埋め尽くしていた檻の闇は一瞬にして深紅の炎に飲み込まれ、重い静寂の代わりに燃える地獄の耳を裂くような轟音が英雄を襲った。凡人の限界を超えた、世界の運命を賭けた最も絶望的で凄絶な最後の聖戦が、幕を開けた。
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