ディアブロ年代記 第5話:トリストラムに到着した王
この物語の目次
原作の出来事をもとに新たに書き下ろしたファンフィクションです。登場人物の感情や台詞、場面の雰囲気は再構成されており、主要な結末を含みます。
カンドゥラスに掲げられた新たな旗

東方の巨大な帝国ケジスタンから渡ってきた旗が、カンドゥラスの冷涼な風に翻っていた。自らを王と宣言したレオリックと、ザカラムの大司教ラザラスが率いる行列がトリストラムに到着したのだ。平和でのどかだった田舎町の村長と住民たちは、華麗な鎧を身にまとった騎士たちの行列を、畏敬の念に満ちた眼差しで見つめていた。
古びているが壮大なホラドリムの旧修道院が彼らの目的地だった。レオリック王は馬から降り、蔦の絡まる大聖堂の巨大な石造りの入り口を満足げな眼差しで見上げた。彼はこの辺境の地を自身の新たな領土とし、光 of 信仰と正義によって統治するという壮大な抱負を胸に抱いていた。
ラザラス大司教は王の傍らで赤い礼服の裾を引きずりながら、大聖堂の薄暗い隙間を注意深く観察した。彼の青白い顔には信仰深い司祭の穏やかな微笑みが浮かんでいたが、瞳の奥深くには得体の知れない渇望が揺らめいていた。村人たちは、ザカラムの高位司祭が自分たちを祝福してくれると信じて頭を下げた。
デッカード・ケインをはじめとするトリストラムの住民たちは、突然の統治者の登場に戸惑いながらも、内心では安堵していた。長らく放置されていた大聖堂が再び活気を取り戻し、騎士たちが村の治安を維持してくれるなら、これ以上ない幸いだと思ったのだ。鍛冶屋のグリスウォルドは、騎士たちの武器を修理することを考えて鼻歌を歌いながら炉を温めた。
宿屋の主人オグデンとその妻は、王の軍勢が消費する食料や物資を計算しながら忙しく動き回っていた。幼いジリアンは華やかな旗と騎士たちの行進を珍しそうに追いかけ、村は久々に祭りのような活気に包まれた。この平和な村が、やがて血生臭い惨劇の舞台になるとは、まだ誰も想像すらしていなかった。
レオリックは大聖堂を自身の華麗な宮廷へと改築するよう命じ、職人たちは絶え間なく資材を運び込んだ。王妃アシラは見知らぬ異郷の冷たい空気に身を震わせながらも、夫の力強い後ろ姿を見つめ、必死に不安を押し殺していた。幼い王子アルブレヒトは、見慣れぬ大聖堂の広い庭を好奇心に満ちた瞳で走り回っていた。
王の傍らに仕える近衛隊長ラクダナンは、黙々と大聖堂周辺の地形を調査し、防衛線を構築していた。彼は忠実で実直な騎士であり、レオリック王が正しい統治を行えるよう、命を捧げて尽くす覚悟ができていた。騎士たちの鎧が擦れ合う音が、トリストラムの静かな夜の空気を切り裂き、頼もしく響き渡った。
しかし、大聖堂の奥深く、誰も足を踏み入れない地下墓地の暗闇の中では、数百年にわたり眠り続けていた邪悪な気配が徐々に胎動し始めていた。地上の活気ある騒音が届かないその場所で、忘れ去られた恐怖が新たな犠牲者の足音を静かに待ち受けていた。カンドゥラスの悲劇は、こうして静かに幕を開けようとしていた。
闇の呼び声と堕ちた司祭

数日後、ラザラスは王の目を盗み、大聖堂の深く暗い地下墓地へと足を進めた。松明の微かな光が湿った苔と古い石壁を照らし、下へ降りるほどに空気は獣の息遣いのように重く濁っていった。彼はまるで目に見えない糸に引かれるかのように、ホラドリムが封印した迷宮の最深部へと進んでいった。
血のように赤く輝く巨大なソウルストーンが祭壇の上に安置されていた。ラザラスがその前に立つと、耳元で数千匹の虫が這い回るかのような不気味な囁きが響き始めた。それは人間の言葉ではなかったが、司祭の心の中で最も脆弱な欲望と恐怖に入り込む、恐ろしくも甘美な声だった。
大司教は両手で頭を抱え、苦悶の呻き声を漏らしたが、引き返すことはしなかった。恐怖の帝王ディアブロはソウルストーンの向こうからラザラスの精神を圧迫し、絶対的な力と栄光を約束した。ザカラムの律法と光の教えは、その圧倒的な悪の意志の前で、一握りの砂のように虚しく霧散してしまった。
ラザラスの瞳は赤い狂気に染まり、彼は震える手を伸ばしてソウルストーンを縛り付けていた古代の封印を一つずつ解き始めた。複雑な呪術や新たな儀式は必要なかった。ただ、堕落した司祭の盲目的な従順と、封印を破壊せんとする悪魔の執拗な意志だけが、その恐るべき解放の鍵となった。
ピキリと音を立ててソウルストーンの表面に微細な亀裂が入り、赤い光が地下墓地を満たした。ディアブロの抑圧されていた精髄がラザラスの魂を完全に掌握し、司祭はもはや光の大司教ではなく、恐怖の忠実な下僕へと生まれ変わった。彼は主君の復活のために、最も完璧で強靭な肉体を捧げることを誓った。
ラザラスはその完璧な宿主として、カンドゥラスの統治者であるレオリック王を選んだ。王の強靭な肉体と権力こそが、恐怖の帝王が現世に降臨し、世界を蹂躙するのに最も適した道具だったからだ。司祭は口元に不気味な笑みを浮かべて地上へと引き返し、彼の影は松明の光に歪みながら踊っていた。
地上に戻ったラザラスは、何事もなかったかのように平穏な司祭の顔を装った。彼はレオリック王の傍に寄り添い、巧みな話術で王の耳に不信と不安の種を植え付け始めた。王は、自分が最も信頼する助言者の内面が、すでに地獄の悪魔に喰い尽くされているとは夢にも思わなかった。
大聖堂の地下から立ち上る目に見えない毒気は、徐々にトリストラム全体へと染み込み始めた。夜な夜な犬たちが理由もなく吠え立て、井戸水には薄い血の色が混じり、人々は原因不明の悪夢にうなされて冷や汗を流した。平和だった村に忍び寄る不穏な影に気づく者は、まだ誰もいなかった。
王の抵抗と芽生える狂気

ディアブロはラザラスを通じてレオリック王の精神に自身の暗黒の触手を伸ばした。夜になると王の寝所は目に見えない恐怖の気配で満たされ、恐ろしい幻影が彼の夢を苛んだ。悪魔は王の魂を屈服させ、その肉体を奪おうとしたが、レオリックの内面は予想以上に堅固で強靭だった。
光の信仰で武装したレオリックの精神は、ディアブロの侵食に猛烈に抵抗した。彼は冷や汗を流して飛び起き、虚空に向かって剣を振り回し、目に見えない敵と一晩中死闘を繰り広げた。悪魔に肉体を明け渡しはしなかったものの、絶え間ない精神的拷問は王の理性を徐々に蝕み、彼を破滅の沼へと引きずり込んでいった。
抵抗の代償は惨酷だった。レオリックの瞳は落ち窪み、顔には深い疲労と病色が色濃く現れた。彼は次第に周囲のすべての人々を疑い始め、忠実な臣下たちが自分を暗殺しようとしているという妄想に取り憑かれた。かつて慈悲深く賢明だった統治者の姿は跡形もなく消え去り、偏執病に囚われた暴君だけが残された。
王妃アシラは夫の恐ろしい変貌を最も近くで見守り、息を潜めて涙を流した。彼女はレオリックの頬を撫でて落ち着かせようとしたが、王はむしろ妻の手さえも毒殺の脅威と見なし、荒々しく振り払った。アシラの胸は冷たく凍りつき、大聖堂の冷たい壁に寄りかかって、迫り来る悲劇を予感して震えていた。
近衛隊長ラクダナンと騎士たちもまた、王の狂気に気づき、深い懸念を抱いていた。レオリックは些細な過ちにも烈火のごとく怒り、過酷な刑罰を科し、異論を唱える者は容赦なく反逆者として地下牢に投獄した。騎士たちは忠誠心と道徳的な葛藤の間で揺れ動きながら、薄暗くなった大聖堂の廊下を重い足取りで歩いた。
ラザラスは王の狂気を巧妙に煽り立て、その隙に乗じて自身の権力をさらに強固なものにした。彼はレオリックに、自分だけが真の忠臣であると囁き、王はその偽りの慰めにすがりついて司祭をさらに頼るようになった。大司教の赤い礼服は、今やカンドゥラス宮廷において最も恐れられる権力の象徴となった。
ディアブロはレオリックの肉体を乗っ取ることを諦めざるを得なかった。王の精神は完全に粉々に砕け散っていたが、その断片化された狂気の中でも、悪魔に支配権を渡さない盲目的な執念が残っていたからだ。恐怖の帝王は激怒して計画を修正し、ラザラスに新たな指示を下して、より脆弱な宿主を探すよう命じた。
空虚な玉座に腰掛けたレオリックは、今や虚空に向かって聞き取りづらい命令を呟く廃人と化していた。揺らめく蝋燭の光の中で、彼の曲がった背中はまるで巨大な怪物の影のように壁に不気味に投影されていた。トリストラムの領民たちは、大聖堂から聞こえてくる王の奇怪な笑い声に夜も眠れず、恐怖に震えなければならなかった。
無謀な戦争と血に染まる国境

ラザラスは王の視線を外部へと逸らし、カンドゥラスの軍事力を消耗させるために狡猾な策略を巡らせた。彼は西方のウェストマチがカンドゥラスに侵攻し、王の領土を奪おうとしているという虚偽の情報をレオリックの耳に吹き込んだ。すでに狂気に囚われていた王は、その言葉を微塵も疑わずに信じ込み、激怒して立ち上がった。
レオリックは直ちにラクダナンを呼び出し、ウェストマチを先制攻撃せよという途方もない命令を下した。平和な隣国を相手に、何の大義名分もなく戦争を仕掛けることは自殺行為に等しかった。ラクダナンは膝をつき、王の衣服の裾を掴んで戦争の不当さと軍勢の劣勢を訴えたが、王の耳には届かなかった。
「余の命令に背く者はすべて反逆者だ!」レオリックは剣を抜いてラクダナンの首元に突きつけ、狂気に満ちた声で叫んだ。忠実な騎士は、血走った王の瞳にこれ以上理性が残っていないことを悟った。彼は身を切るような苦痛の中で頭を下げ、騎士としての誓いに従い、死の行軍を準備せざるを得なかった。
カンドゥラスの軍勢は、重苦しい沈黙の中でトリストラムを去り、ウェストマチとの国境へと向かった。騎士たちの顔には勝利への希望ではなく、無意味な死に向かって歩む者たちの深い絶望だけが満ちていた。村人たちは涙を拭いながら、徴兵された息子や夫たちの後ろ姿を見送り、空には不穏な暗雲が立ち込めた。
戦場はラクダナンの予想通り、凄惨な屠殺場と化した。ウェストマチの精鋭軍は、訓練が不足し士気が地に落ちたカンドゥラスの兵士たちを容赦なく蹂躙した。矢の雨が降り注ぎ、槍と剣がぶつかり合う阿鼻叫喚の中で、ラクダナンは自身の部下たちが血を吐いて倒れていく惨状を、その両の目で克明に見届けなければならなかった。
ラクダナンは最前線で血まみれになりながら剣を振るい、兵士たちを鼓舞したが、戦況を覆すことはできなかった。これは戦闘ではなく一方的な虐殺であり、レオリック王の狂気がもたらした無意味な惨劇だった。土煙と血生臭い匂いが立ち込める戦場で、騎士団長は自分たちを死地へと追いやった狂気の王に対する怒りを噛み締めた。
ラザラスは大聖堂の尖塔から、軍勢が去って空っぽになった村を見下ろし、満足げな笑みを浮かべた。王の忠臣たちとうるさい軍勢がすべて消え去った今、彼の真の目的を阻む障害は何も残っていなかった。司祭の視線は、大聖堂の庭で泥遊びをしている幼い王子アルブレヒトの、か細い後ろ姿に固定された。
ウェストマチとの国境から届く敗戦の知らせは、トリストラムをさらに深い悲しみと恐怖へと突き落とした。オグデンの宿屋は嘆き悲しむ女たちの泣き声で満たされ、グリスウォルドは持ち主を失った壊れた武器を見つめて呆然としていた。村は今や外部の敵ではなく、自分たちの王がもたらした破滅の影に完全に押し潰されていた。
消えた王子と恐怖の器

軍勢が去り、大聖堂の警備が手薄になった隙を突いて、ラザラスはついに行動を開始した。彼は優しい司祭の笑みを浮かべ、一人で遊んでいた幼いアルブレヒト王子に近づいた。地下墓地に不思議な宝物が隠されているという嘘に騙された王子は、司祭の大きな手を握り、闇に包まれた大聖堂の中へと足を踏み入れた。
地下墓地の湿って冷たい空気が王子の頬をかすめると、アルブレヒトは恐怖から足を止めようとした。しかし、ラザラスの握力は鉄のように固く子供の手首を締め付け、司祭の眼光はすでに人間のものではなく悪魔の輝きを帯びていた。王子の小さな悲鳴は、果てしなく続く迷宮の闇の中へと跡形もなく吸い込まれていった。
ラザラスは、赤く脈動するソウルストーンが置かれた祭壇の上へ、もがく王子を乱暴に投げ出した。ディアブロの抑圧された精髄が飢えた獣のようにうねり、幼い子供の純粋で脆弱な魂に向かって伸びていった。アルブレヒトの瞳孔は恐怖で大きく見開かれ、その小さな身体は耐え難い苦痛に痙攣し、弓なりに反り返った。
ソウルストーンから放たれた血の色のエネルギーが王子の額を貫いて入り込み、恐るべき融合が始まった。アルブレヒトの澄んでいた瞳は地獄の業火を宿した赤色に燃え上がり、子供の口からは骨が砕けるような奇怪な悲鳴が沸き起こった。恐怖の帝王は、最も脆弱な器を手に入れることで、ついに現世に自身の存在を繋ぎ止めたのだ。
地上では、アルブレヒトが姿を消したという知らせに大騒ぎとなった。王妃アシラは理性を失い、大聖堂の隅々を狂ったように走り回りながら、息子の名前を必死に呼び続けた。彼女のドレスの裾は埃に汚れ、声は枯れてかすれてしまったが、どこを探しても愛する息子の痕跡は見つからなかった。絶望が彼女の心を冷たく凍りつかせた。
デッカード・ケインと村人たちも松明を手に、トリストラム周辺の森や放棄された井戸をくまなく捜索した。彼らは夜を徹して子供の行方を探したが、大聖堂の地下深くにくすぶる恐るべき真実には、あえて近づこうとはしなかった。人々の顔には疲労と恐怖が交錯し、誰かが王子を誘拐したのではないかという不穏な噂が広まり始めた。
ラザラスはわざと悲しげな表情を浮かべて王妃アシラに近づき、慰めの言葉をかけた。彼は、誰かが王室に恨みを抱いて子供を連れ去ったに違いないと語り、巧妙に村人たちへの疑念の火種を煽った。悲しみに目を曇らせた王妃は、司祭の毒蜘蛛のような言葉巧みな弁舌に騙され、もしかすると領民の中に犯人がいるのかもしれないと考え始めてしまった。
地下迷宮の最深の暗闇の中で、アルブレヒトの姿は徐々に恐ろしい怪物へと変貌していった。子供の皮膚を突き破って赤い角と棘が突き出し、純粋だった記憶は地獄の恐怖と幻影によって塗りつぶされた。ディアブロは宿主の意識を引き裂きながら完全な降臨を準備し、その苦悶の呻き声は迷宮の壁を伝って不気味に響き渡った。
狂気の処刑と王妃の悲劇

息子の失踪を知ったレオリック王の狂気は、ついに抑えの利かない暴走を始めた。彼はトリストラムの領民たちが反逆を企ててアルブレヒトを隠したと確信し、武装した近衛兵たちを村に放って人々を手当たり次第に捕らえるよう命じた。平和だった村の広場は、瞬く間に血生臭い拷問と処刑の場へと変貌した。
無実の農民や商人たちが縛り上げられたまま王の謁見室へと引き立てられ、無実の自白を強要された。レオリックは狂気に満ちた目で彼らを見下ろし、答えられない者たちに容赦なく死刑を宣告し、即座に執行するという蛮行に及んだ。大聖堂前の広場には処刑された者たちの悲劇的な痕跡が消えぬまま残り、村人たちはいつ自分に刃が向けられるか分からないという極限の恐怖に怯え、家の中で息を潜めて泣くしかなかった。
王妃アシラは夫の残酷な虐殺を止めるため、必死に彼の前に立ちはだかった。彼女は血に染まった王の鎧にしがみつき、どうか理性を取り戻してほしいと号泣したが、レオリックの目に映る妻はもはや愛する伴侶ではなかった。狂気に呑まれた王は、アシラさえも反逆者たちと結託して自身の息子を連れ去った裏切り者だと断定してしまったのだ。
「この魔女が余の息子を売り払ったのだ!」レオリックの怒りに満ちた叫びが大聖堂の冷たい壁を叩いた。近衛兵たちは躊躇したが、王の鋭い命令に圧倒され、ついに王妃の両腕を荒々しく拘束した。アシラは信じられないというように夫の顔を見つめたが、そこにはただ偏執病に囚われた悪魔の影が揺らめいているだけだった。
アシラは冷たい地下牢へと引きずられていき、息子の行方を吐けと過酷な尋問を受けた。かつて高貴だった王妃は、暗い独房で一人寒さと恐怖に耐えねばならず、肉体的な苦痛よりも夫の裏切りと失った息子への心配で魂をズタズタに引き裂かれた。彼女が流せるのは、ただアルブレヒトを想う切ない母性の涙だけであり、王はその涙さえも欺瞞と見なして狂気をさらに燃え上がらせた。
結局、レオリックは自身の妻であり国の王妃であるアシラに対し、公開処刑という悲劇的な判決を下した。処刑台の上へと引きずり出されたアシラは、最期の瞬間まで夫を恨むことよりも、どこかで生きているであろう息子の名前を呼びながら涙を流した。容赦のない処刑が執行された瞬間、トリストラムの空には雷鳴が轟き、人間の王の道徳的破滅とカンドゥラス王朝の没落を宣告した。
王妃の処刑が終わると、広場には誰も破ることのできない沈黙が降りた。ある者は祈っていた手を下ろし、ある者は隣の者を支えた。レオリックは妻を失った夫の悲しみではなく、王の命令が執行されたという確信にしがみついた。臣下たちは彼の目を避けた。王を守ったと信じていた服従が、その日何を失わせたのか、彼らの誰も口にすることはできなかった。
アシラの斬首の後、カンドゥラスは文字通り生き地獄へと変貌した。連日のように無実の人々の首が晒され、大聖堂の地下牢は無念の死を遂げていく者たちの悲鳴と腐敗した死臭で満ちた。ラザラスはこの凄惨な虐殺劇を黙って見守り、恐怖の帝王が支配する新たな世界の完璧な序幕であると、暗闇の中で嘲笑していた。
騎士の帰還とスケルトン・キングの呪い

ウェストマチとの絶望的な戦闘から生き残ったラクダナンと少数の騎士たちは、ボロボロになった身体を引きずってトリストラムへと帰還した。彼らを迎えたのは勝利の歓声ではなく、広場に倒れた無実の領民たちの痕跡と、処刑された王妃アシラの悲劇的な最期だった。目の前に広がる惨状を目撃した騎士たちの瞳は、深い衝撃と悲しみ、そして抑えきれない怒りに燃え上がった。
ラクダナンは血まみれの剣を固く握りしめ、もはやレオリックを自身の王として仕えることはできないと骨の髄まで悟った。祖国を破滅へと追いやった狂人を成敗することこそが、騎士としてカンドゥラスに献身する最後の道であると決意したのだ。生き残った騎士たちは黙々と剣を抜き、断固たる足取りで大聖堂の謁見室へと進撃した。
謁見室の扉を蹴破って入ったラクダナンは、玉座に座って虚空に呟くレオリックに向かって、怒りに満ちた声で剣を突きつけた。「貴殿の狂気がこの地を地獄に変えたのだ!今こそその恐るべき統治に終止符を打つ!」騎士たちが一斉に王を取り囲んで近づくと、レオリックは目をギラつかせ、自身の忠臣たちを反逆者と呪いながら剣を抜いた。
かつて互いの命を預け合った君主と騎士団長の間で、凄惨な斬り合いが繰り広げられ、謁見室を血に染めた。レオリックは狂気に駆られて超人的な力を発揮したが、怒りと悲しみで武装したラクダナンの剣撃を最後まで防ぎきることはできなかった。ラクダナンの鋭い長剣がレオリックの胸当てを貫き、彼の黒く染まった心臓の奥深くへと突き刺さった。
致命傷を負ったレオリックは、玉座の下へと膝をつき、ゆっくりと倒れていった。死の淵に立たされながらも、彼の両目は理性を取り戻すことなく、自分を刺した騎士たちに対するおぞましい憎悪でギラギラと輝いていた。彼は最後の力を振り絞り、血に染まった手でラクダナンと騎士たちを指差し、地獄の底から響き渡るかのような、不気味で奇怪な声で最期の呪いを吐き散らした。
「裏切り者どもめ…貴様らは決して安らかな死を迎えることはできぬ!闇が貴様らの魂を蝕み、永遠に余の奴隷となってこの呪われた地を彷徨うことになるのだ!」王の口から放たれた恐るべき呪いは、謁見室の空気を凍りつかせ、騎士たちの心の奥深くに消えない恐怖の烙印を刻み込んだ。
レオリックの息が完全に絶え、その巨大な身体が床に倒れ伏すと、重苦しい静寂が謁見室を支配した。ラクダナンは血に染まった剣を落とし、両手で顔を覆って号泣した。祖国を救うために主君を殺害したという恐ろしい罪悪感と、耳元にこびりつく王の呪いが、彼の残された理性をズタズタに引き裂いていた。
騎士たちは悲痛な思いで王の遺体を収容し、大聖堂の地下墓所に安置した。彼らは自分たちに下された呪いの重さを直感し、黙々と闇の中へと散っていった。まだ第一王子アイダンは故郷に帰還しておらず、スケルトン・キングとして復活するレオリックの恐るべき未来を知らぬまま、カンドゥラスの悲劇は取り返しのつかない破局へと突き進んでいった。
ブッチャーの罠と閉ざされた扉

王が死に、騎士団が散り散りになると、ラザラスは村人たちを扇動するための最後の策略を実行に移した。彼は傷ついた司祭 of 姿で広場に現れ、行方不明のアルブレヒト王子が大聖堂の地下のどこかに閉じ込められていると叫んだ。絶望に暮れていた住民たちは、王子を救い出せばこの恐ろしい悲劇が終わるかもしれないという、儚い希望を抱いた。
屈強な若者や農民たちが、ピッチフォークや松明を手にラザラスの後に続いて大聖堂の暗い入り口へと押し寄せた。オグデンとグリスウォルドも武器を携えて群衆に加わり、デッカード・ケインは不吉な予感に駆られて彼らを引き止めようとしたが、怒りと希望に満ちた群衆を止めることはできなかった。彼らは司祭に導かれるまま、迷宮の深部へと躊躇なく降りていった。
しかし、彼らを待ち受けていたのは救出すべき王子ではなく、血に染まった斧を手にした巨大で恐ろしい悪魔、ブッチャーだった。ラザラスが闇の中へと忽然と姿を消すやいなや、四方の扉が閉ざされ、獣の唸り声が迷宮に響き渡った。「新鮮な肉だ!」という身の毛もよだつ咆哮とともに、ブッチャーが無防備な住民たちに向かって突進してきた。
迷宮の狭い通路では、逃げ場すら容易に見つからなかった。農具を握る手は力なく震え、誰かが落とした松明が床を転がって光を乱した。先頭に進んでいた隣人の声が突然途絶えると、後ろにいた人々は互いの名を呼び合いながら後退した。王子を救うという希望は恐怖へと変わった。閉ざされた扉の向こうへ司祭が消え去ったことに気づいた時には、すでに手遅れだった。
グリスウォルドは怪力を発揮してハンマーで悪魔の攻撃を弾き返し、必死に退路を切り開いた。オグデンと数人の生存者たちは血まみれになりながら彼の後に続き、狂ったように地上を目指して駆け上がった。背後から聞こえる隣人たちの断末魔の叫びを耳にしながら、彼らは恐怖に怯えつつ大聖堂の階段を這い上がり、かろうじて外へと脱出することができた。
生き残った者たちが村に戻ると、トリストラムは抑えの利かないパニックに陥った。デッカード・ケインとオグデンは直ちに村の入り口を封鎖し、残された人々を安全な場所へと避難させた。ジリアンは恐怖に震えながらドアに鍵をかけ、グリスウォルドは黙々と炉に火を熾し、迫り来る悪魔たちとの絶望的な籠城戦の準備を始めた。
かつて活気に満ちていた村は、今や死の影が色濃く漂う孤立した墓場へと変貌していた。大聖堂の地下からは毎夜、正体不明の怪物たちの咆哮が聞こえ、血の色の霧がトリストラムの夜の街を幽霊のように彷徨った。カンドゥラスの中心であったこの小さな村は、外部の世界から完全に遮断され、徐々に息を引き取ろうとしていた。
その頃、遥か遠くの戦場で悲報を聞き、故郷へと馬の首を巡らせた一人の騎士がいた。レオリックの長男であるアイダン王子が、険しい旅路の末に、ついにトリストラムの境界へとたどり着いたのだ。彼の前には、狂い果てた父の死と、悪魔の巣窟と化した故郷が待ち受けていたが、彼はまだ、その敷居の向こうに潜む恐るべき真実を何一つ知らなかった。
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