ディアブロ年代記 第9話 · 砂漠の墓所に残された手
この物語の目次
原作の出来事を基に新たに書き下ろしたファンフィクションです。登場人物の感情や台詞、場面の雰囲気は再構成されており、主要な結末を含みます。
ルート・ガレインの港と深まる不安

ワリヴの隊商が果てしない砂嵐を突き抜け、ついにルート・ガレインの巨大な城壁の下に到着した。砂漠の宝石と呼ばれたこの港町は、かつての活気を完全に失い、重苦しい静寂だけが漂っていた。英雄が馬車から降りると、潮風の代わりに血の臭いが鼻をかすめた。
城門の前を守る傭兵隊長グレイズは、槍を握る手に力を込めていた。彼の目元には、何日も徹夜したかのような深い疲労が滲んでおり、かすれた声で、下水道から這い出てくる怪物たちのせいで民が死んでいっていると吐露した。英雄は黙ってうなずき、彼の絶望と向き合った。
広場の一角では、老学者デッカード・ケインが古代の文献を調べながら、暗い表情を浮かべていた。アンダリエルを打ち破り、東へと進んできた英雄を歓迎しつつも、ケインの声には、迫り来るさらなる大災厄への恐怖が混じっていた。彼は、暗黒の放浪者がこの砂漠のどこかに向かったという不吉な知らせを伝えた。
魔術師ドログナンは腕組みをしたまま、街を包む気配を鋭く観察していた。彼は、放浪者がただ通り過ぎるのではなく、遥か昔にホラドリムが封印した破壊の魔王バアルを探しているのだろうと推測した。その封印の地であるタル・ラシャの墓所を見つけ出してこそ、この恐ろしい事態を阻止できるというのだ。
ドログナンの説明によると、タル・ラシャは自らの身体を捧げてバアルのソウルストーンを宿し、永遠の戦いを続けている最中だった。しかし、墓所の位置は徹底的に隠されており、ただホラドリムの杖だけがその道を開くことができるという。英雄は剣の柄を固く握りしめ、自分が背負うべき重荷を実感した。
グレイズは、墓所を探す前に、まずは街の息の根を止めている下水道の怪物を退治してほしいと懇願した。夜な夜な聞こえてくる恐ろしい悲鳴に、傭兵たちさえも士気を失って逃げ出す始末だった。英雄は迷うことなく下水道へと続く鉄格子の扉を押し開け、深く湿った闇の中へと足を踏み入れた。
地下へ降りるほどに悪臭は強まり、松明の光さえも立ち込める毒気でかすんでいった。壁面には犠牲者たちの血痕が鮮明に残っており、ここで繰り広げられた惨劇を物語っていた。英雄は盾をしっかりと構え、四方から聞こえてくる骨のぶつかり合う音に神経を集中させながら、慎重に進んだ。
湿った通路の奥で、奇怪な呪文を唱える巨大な影が揺らめいていた。古代のミイラの姿をした怪物、ラダメントが、死者を絶え間なく蘇らせながら英雄に向けて毒気を吐き出した。砂漠の宝石を蝕んだ元凶との、避けることのできない戦闘が、狭く暗い地下空間でついに幕を開けた。
下水道のラダメントとホラドリムの手がかり

ラダメントの口から放たれる猛毒は、触れた瞬間に息が詰まるほど致命的だった。英雄は素早く身を翻して毒の霧を避け、盾で蘇った骸骨たちの剣撃を弾き返した。闇の中で不気味に光るミイラの赤い眼光には、生けるものすべてを憎悪するような殺意が込められていた。
蘇る死体たちを斬り倒しても、ラダメントが手を振れば、すぐに砕けた骨が再び絡み合って立ち上がった。英雄は無意味な消耗戦を避けるため、怪物たちの隙間をすり抜け、まっすぐ首領に向かって突進した。鋭い剣気が腐った包帯を切り裂くと、ラダメントは奇怪な悲鳴を上げてよろめいた。
致命傷を負ったラダメントが足掻きながら吐き出した最後の毒気が四方に広がっていった。英雄は息を止め、渾身の力を込めて剣を突き下ろし、巨大なミイラはついに骨が砕ける音とともに床に崩れ落ちた。彼を護衛していたアンデッドの群れもまた、主を失い一斉に灰となって散っていった。
ラダメントが倒れた場所には、古い羊皮紙の巻物が一つ落ちていた。血痕と汚物で汚れていたが、表面に描かれた古代の紋様は明らかにホラドリムのものだった。英雄は慎重に巻物を拾い上げ、松明の光に近づけて内容を確認し、これが墓所を見つける手がかりであることを直感した。
地上に戻った英雄を最初に迎えたのは、安堵に満ちたグレイズの明るい笑顔だった。傭兵隊長は固く閉ざされていた街の下水道の入り口を封鎖し、英雄の功績を称えた。ルート・ガレインの民は、ようやく夜の恐怖から解放されて短い休息を取ることができ、通りには少しずつ活気が戻り始めた。
デッカード・ケインは英雄が持ち帰った巻物を受け取り、震える手で文字を解読し始めた。彼のしわくちゃの額に深いしわが刻まれ、やがて巻物がホラドリムの杖の製法を記しているという事実を突き止めた。杖の木の柄と金属の装飾は、砂漠のあちこちに分けられて隠されていた。
柄は「蛆虫の巣窟」の奥深くに、飾りは「爪の蛇の寺院」に封印されているというケインの説明が続いた。この二つの破片を見つけ出し、ホラドリムのキューブで融合させてこそ、タル・ラシャの墓所を開くことができる完全な杖が完成する。英雄は果てしなく広がる砂丘の向こうを見つめ、険しい旅路を覚悟した。
ドログナンは、砂漠へと旅立つ英雄に魔法の保護が施された薬を渡し、警告した。放浪者が通り過ぎた場所には、すでに地獄の悪魔たちが群がっており、太陽の光さえも彼らの邪悪な魔力を突き抜けることはできないだろうと。英雄は荷物をしっかりとまとめ、灼熱の太陽の下、果てしない砂漠へと足を進めた。
砂漠の呪いを払う旅

乾いた丘を越えてたどり着いた「蛆虫の巣窟」は、おぞましい虫の群れの生息地と化していた。巨大な砂蛆たちが粘液を撒き散らしながら狭い通路を埋め尽くしており、足を踏み入れるたびに不快な音が響き渡った。英雄は松明を振り回して虫たちを追い払いながら、地下深くへと慎重に降りていった。
巣窟の最下層には、山のように巨大な蛆虫の女王がとぐろを巻いていた。猛毒を帯びた棘が四方に放たれる中、英雄は盾を身体に引き寄せ、死角に潜り込んで女王の急所を突いた。粘り気のある体液が噴き出し、倒れた女王の背後から、英雄はついにホラドリムの杖の木製の柄を見つけ出した。
柄を回収して外に出ると、砂漠の空は奇妙にも血のような闇に染まっていた。真昼であるにもかかわらず太陽は光を失い、冷たい冷気が砂嵐に乗って逆らってきた。英雄はこれが爪の蛇たちがかけた呪いであることを悟り、闇の根源である「忘れられた都市」の向こうにある蛇の寺院へと足を急いだ。
寺院の内部は、冷たく滑りやすい鱗を持つ爬虫類の怪物たちで溢れかえっていた。蛇の頭を持つ人型の怪物たちは、鋭い槍を振り回して英雄を包囲し、致命的な毒牙を光らせて四方から襲いかかってきた。英雄は剣を大きく振るって包囲網を突破し、祭壇のある中心部を目指して、血生臭い戦闘を粘り強く続けた。
祭壇の上には不吉な気配を放つ巨大な太陽の祭壇が鎮座していた。その周りをうろつく毒蛇の頭目を討ち取った英雄は、ためらうことなく祭壇を剣で叩き割り、粉々に砕いた。ガチャンという破裂音とともに祭壇が壊れると、その中に封印されていたホラドリムの杖の金属の装飾が姿を現した。
祭壇が破壊されると同時に、砂漠を押し潰していた血の闇が、洗い流されたかのように晴れ始めた。雲の隙間から強烈な太陽の光が再び降り注ぎ、ルート・ガレインの大地を温かく包み込んだ。英雄は蛇の形をした金属の飾りを懐に収め、ついに杖の二つの破片をすべて集めたという達成感に、深く息を吐き出した。
街に戻った英雄は、ホラドリムのキューブの中に木製の柄と金属の飾りを慎重に置いた。ケインに教わった古代の呪文を唱えると、キューブの中から眩い光が放たれ、二つの破片が一つに融合した。ついにタル・ラシャの墓所を開くことができる、完全なホラドリムの杖が完成する驚異的な瞬間だった。
しかし、杖を手に入れたものの、本物のタル・ラシャの墓所がどこにあるのかは依然として謎のままだった。ドログナンは、宮殿の地下に開かれたポータルを通じて「秘術の聖域」に行かなければ、その答えは見つからないと助言した。英雄は完成した杖を背中に固く縛り付け、ジェルヒン王が開いてくれた宮殿の地下の深い闇の中へと向かった。
秘術の聖域と本物の墓所の幻影

宮殿の地下の血痕に沿って降りていった末に、英雄は幾何学的な空間が広がる秘術の聖域に足を踏み入れた。虚空に浮かぶ石の道と逆さまにそびえる柱は、現実の物理法則を完全に無視していた。宇宙の深淵を歩くような奇妙な感覚の中で、英雄は墓の手がかりを探して迷路をさまよい始めた。
聖域の通路の至る所に、炎を吐くグール・ロードたちや稲妻を放つゴーストたちが陣取っていた。虚空から飛んでくる魔法攻撃を盾で弾き返しながら、英雄は危うい石の道を渡り、敵を斬り倒していった。一歩間違えれば果てしない深淵へと転落しかねない、緊迫した戦闘が延々と続いた。
迷宮の果て、四つの道が交差する中心部に、狂気の召喚士が陣取っていた。彼はかつてトリストラムから来た魔術師ジャズレスであったが、今は堕落した魔力に溺れ、悪魔を従える怪物へと成り下がっていた。ジャズレスは英雄に向けて奇怪な笑い声を上げ、破壊的なファイアボールを放ってきた。
炎が石の道を包み込む中、英雄は柱の陰に身を潜め、ファイアボールの軌道を見極めた。ジャズレスが次の呪文を唱えるために一瞬息を整えたその刹那、英雄は地面を蹴って飛び出した。鋭い剣が召喚士の胸を貫くと、彼の笑い声は恐ろしい断末魔へと変わり、虚空へと消えていった。
ジャズレスが倒れた場所の背後には、赤い光を放つ「ホラゾンの日誌」が宙に浮いていた。英雄が慎重に日誌に手をかざすと、脳裏に七つの古代の墓所の紋様が目まぐるしく押し寄せてきた。そのうち六つは偽りの幻影であり、ただ一つの紋様だけが、本物のタル・ラシャの墓所を指し示していた。
日誌の魔力が解放されると同時に、本物の墓所の紋様が英雄の脳裏に鮮明に刻み込まれた。同時に聖域の空間が歪み、「魔術師の渓谷」へと続く巨大な赤いポータルが口を開けた。英雄は汗に濡れた額を拭い、ホラドリムの杖を握り直すと、バアルが囚われている砂漠の果てを目指してポータルへと身を投じた。
魔術師の渓谷に到着するやいなや、肌を刺すような砂嵐が英雄の視界を遮った。巨大な岩壁に沿って七つの墓所の入り口が口を開けており、それぞれの入り口にはホラゾンの日誌で見た紋様が刻まれていた。英雄は記憶の中の本物の紋様を思い浮かべ、無数の悪魔を蹴散らしながら、正しい墓所を探し求めた。
ついに本物の紋様が刻まれたタル・ラシャの墓所の入り口の前に立った英雄は、濃密な闇の気配を感じ取った。墓所の奥からは、獣の咆哮のようでもあり、苦痛に満ちた呻きのようでもある音が絶え間なく流れ出ていた。英雄は杖を固く握りしめ、強い決意とともに、千年の間閉ざされていた封印の扉を開けて闇の中へと入っていった。
タル・ラシャの墓所にたどり着いた放浪者とマリウス

英雄が秘術の聖域を彷徨っていた頃、暗黒の放浪者と老いたマリウスは、すでに魔術師の渓谷の深部に到達していた。放浪者の足取りは日に日に重くなり、彼の身体からは血のような煙とともに悪魔の姿が重なって見えた。マリウスは恐怖に震えながらも、不可解な力に引き寄せられるように、彼のすぐ後ろを追っていた。
放浪者が本物のタル・ラシャの墓所の入り口に達すると、固く閉ざされていた石の扉がひとりでに開き、道を譲った。墓所の内部は、千年の歳月を感じさせないほど冷たく乾燥しており、壁面には古代ホラドリムのルーン文字がかすかに光を放っていた。マリウスは息を潜め、放浪者の曲がった背中を見つめながら生唾を飲み込んだ。
迷路のような通路を通り抜け、最も深い封印の間に足を踏み入れると、巨大な柱に鎖で縛られた一人の男の姿が現れた。彼こそが、自らの身体を捧げて破壊の魔王を封印した偉大な魔術師、タル・ラシャだった。彼の胸には、琥珀色に輝くバアルのソウルストーンが深く突き刺さっており、その皮膚は無残に干からびていた。
放浪者がタル・ラシャに近づいた瞬間、虚空から眩い光が弾け飛び、大天使ティリアルが降臨した。ティリアルの青い翼が封印の間を明るく照らし出し、彼は毅然とした声で放浪者の行く手を阻んだ。ディアブロの気配に蝕まれた放浪者は、おぞましい咆哮を上げながらティリアルに向けて猛然と襲いかかった。
大天使と悪魔の衝突により、墓所全体が地震が起きたかのように激しく揺れ動いた。光の剣と闇の魔力がぶつかり合うたびに、鼓膜を裂くような破裂音が響き渡り、マリウスは恐怖のあまり隅にうずくまって耳を塞いだ。ティリアルは放浪者を圧倒して壁へと押しつけ、勝敗はすぐに決するかのように見えた。
しかしその瞬間、鎖に繋がれたタル・ラシャが苦痛に満ちた呻き声を漏らし、マリウスの方へと顔を向けた。バアルの魂に蝕まれた彼の両目は哀れみの光を帯びており、裂けた唇の間から、どうか自分をこの苦しみから解放してくれという幻聴が流れ込んできた。マリウスの心の中に、激しい憐れみと混乱が渦巻いた。
ティリアルが放浪者を制圧することに全神経を注いでいる間、マリウスは吸い寄せられるようにタル・ラシャの前へと歩み寄った。凄まじい苦痛の中で悶え苦しむ男を救わなければならないという盲目的な衝動が、彼の理性を麻痺させた。マリウスの震える手が、タル・ラシャの胸に突き刺さった琥珀色のソウルストーンへと、ゆっくりと伸びていった。
ソウルストーンの冷たい感触がマリウスの指先に触れた。彼はタル・ラシャの哀願するような眼差しと向き合い、何かに取り憑かれたように力を込めてソウルストーンを引き抜いてしまった。その瞬間、封印の間の空気が凍りつき、タル・ラシャの口から引き裂くような悪魔の笑い声が響き渡り、千年の封印は虚しくも破れ去った。
愚かな憐れみと破壊の魔王の解放

ソウルストーンが引き抜かれたタル・ラシャの肉体は、瞬く間に破壊の魔王バアルの姿へと歪み始めた。ちぎれた鎖が床に転がり、解放された悪魔のおぞましい魔力が墓所の中を吹き荒れた。マリウスは自分が何をしてしまったのかを悟り、後ずさりしたが、手に握られたソウルストーンはすでに彼の運命を縛りつけていた。
一足遅く事態を把握したティラエルが、絶望的な叫び声を上げながらバアルに向かって巨大な光の剣を振り下ろした。しかし、ディアブロの気運を宿した放浪者と完全に解放されたバアルが同時に大天使を圧迫してくると、戦闘の状況は瞬く間に逆転した。ティラエルの青い翼が悪魔たちの挟撃に折られ、次第に光を失っていった。
バアルは奇怪な触手を伸ばしてティリアルの四肢を拘束し、彼を封印の間の中央にある柱に押しつけた。放浪者は満足そうにうなずき、兄弟との再会を祝うかのような気配を放った。ティリアルは苦痛の中でも必死に顔を巡らせ、恐怖で完全に硬直しているマリウスを見つめた。
大天使は血を吐くような思いでマリウスに命じた。そのソウルストーンを持って東のクラストを通り、地獄の炉へと向かい、それを破壊せよという、切迫しつつも断固とした叫びだった。マリウスは涙に濡れた顔で首を振ったが、ティリアルの強烈な意志が込められた視線から逃れることはできなかった。
バアルがマリウスに向けて殺意を放とうとした瞬間、ティリアルは残された光の力を振り絞り、悪魔たちの視線を自分へと引きつけた。そのわずかな隙を突き、マリウスはソウルストーンを胸に抱いて、狂ったように墓所の出口へと走り出した。背後から聞こえてくる天使の悲鳴と悪魔の笑い声が、彼の耳を切り裂いた。
マリウスが逃げ出した直後、バアルと放浪者は墓所の奥深くに大天使を閉じ込める結界を張った。彼らは自らの目的を果たすため、長兄メフィストが囚われている東の密林へと旅立つ準備を整えた。千年の間バアルを繋ぎ止めていた監獄は、今やティリアルを縛りつける絶望の奈落へと変貌した。
二つの大悪魔が去った場所には、苦痛の帝王デュリエルが残り、墓所を守ることとなった。巨大な虫の姿をしたデュリエルは、鋭い鎌のような前足をぶつけ合いながら、おぞましい冷気を放った。彼は、後から墓所を訪れるであろう人間の英雄を切り刻むため、封印の間の闇の中で静かに息を潜めた。
マリウスは砂漠の砂嵐の中を逃げ惑いながら、絶えず自らの愚かさを呪った。手に握られた琥珀色のソウルストーンは、まるで生きている心臓のように不吉に鼓動していた。彼はティリアルの最後の命令を繰り返し唱えながら、自分が犯した恐ろしい過ちを償うため、東へと向かう険しい旅路についた。
苦痛の帝王デュリエルと囚われた大天使

英雄がホラドリムの杖を祭壇に突き刺すと、巨大な轟音と共に封印の間へと続く壁が崩れ落ちた。砂埃を突き抜けて足を踏み入れた空間は恐ろしいほど冷たく、バアルの痕跡はどこにもなかった。代わりに英雄を迎えたのは、巨大な体をよじらせながら近づいてくる苦痛の帝王、ドゥリエルだった。
デュリエルが放つ氷結のオーラは、息を吸い込むことさえ苦痛に感じさせた。英雄の足取りは冷気によって凍りつき、目に見えて遅くなった。その隙を突き、デュリエルの巨大な鎌が虚空を切り裂いて襲いかかってきた。英雄はかろうじて盾を持ち上げて攻撃を防いだが、凄まじい衝撃で後ろに吹き飛ばされ、床を転がった。
狭い封印の間の中では、デュリエルの突進を避けるスペースが圧倒的に不足していた。英雄は凍りついた身体を無理やり動かし、柱の間を行き来しながら敵の攻撃を分散させた。デュリエルが怒り狂って地面を叩きつけるたびに、天井から巨大な岩が崩れ落ち、戦闘は一寸先も見えない死闘へと発展していった。
冷気に蝕まれ、感覚が麻痺していく中、英雄は懐に忍ばせていた解氷の薬を飲み干した。凍りついた血管に熱い気運が巡ると、固まっていた身体が再び軽くなった。英雄はデュリエルが前足を大きく振り上げた瞬間を狙い、彼の分厚い甲殻の隙間にある柔らかい関節に向けて、剣を深く突き刺した。
苦痛の帝王は奇怪な悲鳴を上げて暴れたが、英雄は剣を離さず、体重を乗せて傷口をさらに深く切り裂いた。噴き出す忌まわしい体液を浴びながらも、英雄は手を緩めず、立て続けに致命傷を与えた。ついにデュリエルの巨大な肉体が崩れ落ち、封印の間の床が振動とともに沈み込んだ。
デュリエルが死に、凄まじい冷気が晴れた墓所の奥から、微かな光が漏れ出ていた。英雄が慎重に奥の部屋へと足を踏み入れると、虚空に吊るされたまま結界に囚われている大天使ティリアルの痛々しい姿が現れた。彼の青い翼は引き裂かれ、聖なる鎧は悪魔たちの攻撃によって無残に砕け散っていた。
英雄が近づいて結界を破壊すると、ティリアルは重い息を吐きながら床へと降り立った。彼は人間の英雄が苦痛の帝王を打ち破ったことに敬意を表しつつも、到着が遅すぎたと沈痛な表情を浮かべた。バアルはすでに、凡人の愚かな憐れみによって千年の封印を破り、解放されてしまったという衝撃的な事実を告げた。
英雄は、自分が杖を探し求めて彷徨っている間に起きた恐ろしい失敗に、拳を固く握りしめた。アンダリエルを倒し、砂漠を越えてきたにもかかわらず、結局悪魔の解放を防げなかったという自己嫌悪が押し寄せた。しかしティリアルは、絶望している時間はないと、まだソウルストーンを持つマリウスが生きているのだから希望は残されていると、英雄を鼓舞した。
東の密林へ向けた新たな追跡

ティリアルは、ディアブロとバアルが彼らの長兄である憎悪の魔王メフィストを解放するため、東のクラストへと向かったと説明した。三つの大悪魔が一つに集まれば、聖域(サンクチュアリ)はもちろん、高天原(ハイ・ヘヴンズ)さえも持ちこたえられないほどの災厄が降りかかることは明白だった。大天使の声には、かつてない切迫感と深い懸念が滲んでいた。
英雄はティリアルの警告を胸に刻み、折れた剣の刃を研ぎ直し、盾の紐を固く締め直した。砂漠での虚しい追跡が残した痛恨の失敗を深く心に刻み、今度こそ悪魔たちの歩みを止めてみせると誓った。ティリアルは英雄に光の祝福を授け、急いでルート・ガレインに戻るよう促した。
墓所を脱出して街に戻った英雄を迎えたのは、ジェルヒン王とデッカード・ケインだった。英雄が伝えたバアル解放の知らせに、ケインは深い嘆息を漏らしてうなだれた。しかし、すぐに気を取り直した老学者は、クラストのザカラム教団がすでにメフィストの堕落に染まっている可能性を指摘し、備えを急いだ。
ジェルヒン王は英雄の献身に深い感謝を捧げ、東へと向かえるようメシフの船を手配することを約束した。砂漠の宝石は英雄のおかげで闇から救われたが、世界の運命は今や海を越えた密林の地に託されていた。民は港へと向かう英雄の背中を見つめ、無言の応援を送った。
港に停泊していた船長メシフは、帆を上げて出航の準備を整えていた。彼は英雄とケインを船に乗せ、険しい双子海を渡って東の大陸へと向かう航路へと乗り出した。塩辛い潮風が英雄の頬をかすめ、遠ざかるルート・ガレインの全景が赤い夕日に染まっていった。
船の甲板に立った英雄は、水平線の向こうに重く立ち込める暗雲を見つめた。そこには放浪者と解放されたバアル、そしてソウルストーンの重さに押し潰されながら逃げ回っているであろう老いたマリウスがいるはずだ。英雄の心の中には、デュリエルが残した冷たい恐怖の代わりに、大悪魔たちを滅ぼすという熱い闘志が燃え上がっていた。
ケインは甲板の一角で古い羊皮紙を広げ、クラストの密林とトラヴィンカルの地形の研究を始めた。彼はメフィストの憎悪がいかに巧妙に人間の心に入り込むかを警告し、次の戦闘は肉体だけでなく精神をも蝕む試練になるだろうと助言した。英雄は黙ってうなずいた。
帆をいっぱいに膨らませた風に乗り、船は黒い波を切り裂いて東へと進んだ。砂漠の墓所で逃してしまった破壊の手は、すでに密林の心臓部へと伸びていたが、追跡者の意志もまた決して折れることはなかった。来たるべき血生臭い憎悪の地に向けて、英雄は揺るぎない眼差しで、闇の降りた海を睨み据えた。
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